高柳町の昆虫相

 昆虫が地球上に出現したのは、化石等により3億年も前のことといわれている。悠久の歳月をかけて種の分化を果たし、地球上至る所に生活域をもつ大集団を形成し動物社会で最も繁栄している集団となった。
 その種類数は90万種とも100万種ともいわれており、日本だけでも29,000種と推定され、年々新種の発見記載があり、全容解明にはほど遠い大部隊である。〔一部略〕
 高柳町の現在の地形の基盤は、田代、門出地区の貝化石、鶴間の炭化した木の化石等により新第3紀以降第4紀にかけての激しい地殻変動の累積を反映してできたと考えられている。
 南東側東頸城山塊と西側にそれより高い米山山塊〔黒姫山889,5m〕に囲まれた高柳町を両断して南西より北東へ支流を集めて流れ下る鯖石川は河岸段丘を残しV字状谷を刻み、そこに豪雪の滑落により形成される急斜面がはりついて独特の深い谷と襞の多い複雑な地形を作り出している。
 高柳町に今日の昆虫相の定着が見られるまでには海進、海退〔
※海面が上昇し陸への進んだり、下降し退いたりすること〕の寒暖をともなう島嶼化運動をくり返す地球の歴史とその時々にシベリア系〔北方系〕、南西支那系〔南方系〕の日本列島への侵入、定着、絶滅の栄枯盛衰の背景がある。
 高柳町の現在の昆虫社会を形成する虫たちもこの流れに沿った血縁と地縁に生きている。虫の組み合わせを決めるものは、まず気温等気象条件と植物相の成立の自然条件および人為活動による開発、農薬の使用などである。
 高柳町の植物は集落に近いほどスギの植林が多く、それに続いてコナラミズナラホウ等の雑木の混交林があり、標高を増すとブナ林の点在がみられ植物相に重厚さを加えている。町当局が私有林を取得し、ブナの自然林の保全を企画、推進していることは自然環境と昆虫をはじめとする生態系の維持の観点から時宜にあった事と注目に値する。
 高柳町の昆虫相を概観すると、蝶類ではベニシジミヤマトシジミイチモンジセセリアカタテハ等適応性の強い人里種が多い。南北両系の種が生息しているが、鯖石地区には姿を見せる暖地系の大型蝶モンキアゲハには出会わなかった。逆にサカハチチョウクジャクチョウ、コキマダラセセリ等の山地系の種が目立ち、やや北方系の種が優位と推測される。
 
 サカハチチョウ
 高柳町の蝶で特筆すべきはクロシジミの存在で柏崎・刈羽郡内では現在唯一の生息地である。
 本種の幼虫はアリとの共生で知られ、本県で話題になったのは、昭和27年9月21日〔日〕柏崎市第一中学校講堂を会場として開催された越佐昆虫同好会第21回集談会で当時、農林省家畜衛生試験場北陸分場技師永山文昭氏が「ゼフィルス〔シジミチョウ〕の生活史」と題して講演された。その折、本種クロシジミの生態に言及されているが、それが地元荒浜での観察だったか否かは今では定かではない。採集記録にも当地の方には全くなく半世紀近くたって脚光を浴びたことになる。
 なお、高柳町の昆虫相を特徴づけるものとしては、ブナ林を唯一の生息域とする虫たちであろう。その代表種は蛾ではウグイスシャチホコの他数種、甲虫ではコルリクワガタ、ヨコヤマヒゲナガカミキリ、初夏のブナ林の合唱隊エゾハルゼミであろう。
 これらの種は県下でも生息地が少なく希少種に属する。また、山地生のオオツノトンボ、黒姫山山頂近くで採集されたミヤマサナエ等もまた、高柳のカラーを存分に演出するスター達でまことに多士済々である。
 また、環境庁の指標昆虫にあげられており、町全域で可憐な飛翔が見られる春の女神ギフチョウ、初夏各沢筋に大量に発生するゲンジボタル、これらは高柳町の自然の保全度の高さを物語っている。

〔引用文献 高柳の自然〕

資料→石黒の動植物