ノシメトンボ
暮らしとの関わり
 ノシメトンボは、子どもの頃から最も身近に見てきたトンボであったが名前も知らずに過ごしてきた。正直なところ今までアキアカネと区別しないで見てきた。
 今日(2020.6.25)、新たにノシメトンボの頁を作ることにして、WEB上で調べると七十数年も前の子ども時代(1945年頃)の記憶の中に徐々にその姿が蘇って来た。翅の先端に黒褐色の斑紋のあるその姿を思いだしたのだ。
 ふるさと石黒の生家の裏のタネ(小さな池)とブナ林が隣接する半日陰の場所-僕らの遊び場-にいつも見られたトンボであった。だが、ノシメトンボは、僕ら子どもにとっては見慣れたアカトンボの地味な一種にすぎず「ただのトンボ」に過ぎなかった。
 また、当時は農薬もなくトンボは恵まれた生息環境にあったので9月の半ばともなると今日では想像もつかないほどの夥しい数のアカトンボの飛翔が見られた。そんな中でノシメトンボは、アキアカネの鮮やかな赤色も、キトンボの燃えるような橙色も持たない実に地味なトンボであった。
 しかし、今にして思えば子どもの頃に、春から晩秋まで常に身近に居て共に過ごしたトンボはこのノシメトンボであったのである。
 今、こうして自宅の庭でノシメトンボの姿を眺めていると、思いがけない出会いに喜びと新たな親しみが湧いてくるように思われる。

 写真 2020.6.24 松美町
 
               前面から
写真 2020.6.24 松美町
             後面から 
写真 2020.6.27 松美町

解 説
トンボ科
 日本全国の各地で見られるアカトンボで、体色は余り赤くはならない。
 6月頃から羽化して秋に成熟する。羽化するとその場所を離れて近くの林やその周辺に移動して成熟するまで棲息する。アキアカネのように遠く離れた高い山に移動することはない。
 体長は雌雄ほとんど変わりなく、37~52mm。国内のアカトンボの中では特に大型である。
 特徴は、翅の先端に褐色の斑紋があり飛翔時にも確認できる。(斑紋のない個体も稀に見られる)
 未熟なうちは体色は黄褐色だが成熟すると全体的に黒味が増してくる。また、成熟個体の雄の腹部背面は暗赤色に変化する程度で赤くならない。
 産卵はや水田の稲穂の上やその周辺の草地などで、緩やかに飛びながら上下動を交えて卵を振り落とす。
 卵は越冬して翌春早く幼虫となり成長を始め6月下旬ころから羽化を始める。成体は11月頃まで見られる。
 名前の由来は腹部の黒い斑紋が熨斗目模様に似ていることによる。



    正面からの姿

写真 2020.6.24 松美町

      頭部全面
写真 2020.6.27 松美町