ガマズミ
暮らしとの関わり
 石黒では、ガマズミを「サルノトッケツ」と呼んだ。「猿の尻」という意味で円形にびっしりとついた赤い実(下写真)を猿の尻の赤い斑点に見立てたものか。
 子どもの頃、村の古老に聞いた話では大昔は黒姫山には猿が棲息していたというからまんざらの当て推量ともいえない。
 ガマズミは、山道の脇などに多く見られる木で、9月の半ば頃になると小さな果実が赤くなる。
 当時の子供たちは、この実を手でつかみ取って、口に放り込み,果汁を吸って種を一気に吐き出した。さっぱりした酸味があったが、ほとんどが種子なので、いつも物足りない感じがしたものだ。
 味は、果汁が多く甘みもある同種のミヤマガマズミには遠く及ばなかった。
 しかし、ガマズミも、秋が深まるにつれて果実の甘みが増したが野鳥が食べてしまうせいか出会うことは少なかった。とくにミヤマガマズミの完熟した果実はめったに子どもの口に入らなかった。〔現在では石黒の山道に完熟した果実が普通に見られるので、どうやら当時、道端のこれらの果実を食べ尽くしたのは野鳥ではなく我々子どもであったかも知れない〕
 ちなみに、今日(2018.12.9)の新潟日報に遠藤ケイ氏の書かれた文章にに、「ガマズミの実は東北地方のマタギの間では疲労回復の妙薬とされ、山の神の授かり物として大切にされてきた」とある。来秋にガマズミと出会うのが楽しみだ。「お見それしました」と声をかけてやりたい。
 木部は、柔軟性があり折れにくいため昔から鎌の柄などに利用された。また、ボイのネジキにしたりカンジキの輪に利用した。
 今も、毎年のように、秋になると見事に結実したガマズミやミヤマガマズミに出会い、足を止めて見とれてしまうことがある。
資料→春木のボイの束ね方(動画)
 また、しばしば、ガマズミミケフシタマバエによる虫こぶを目にする。タマバエの産卵の影響で正常実の2倍ほどの球形になる。表面には白色の短毛が密生する。このタマバエは、卵を若い実に産みつけ、卵は夏には孵化して秋には急速に成長し落下した果実の中で蛹で越冬し翌年の初夏には羽化するという。
 赤く色づいた果実は小鳥の目を引くが緑色で灰色の毛に覆われた虫えいは、鳥のエサになる心配もない、なんと巧妙なことであるか。
 時には、ガマズミとは異なる木と思われるほどすべて果実が虫えいに変わったものに出会う。(右下写真)
 来年(2012)は、虫えい内部の様子は更によく観察して画像を入れ替えたい。
 今朝(2013.9.25)、目覚めると曇りの天気予報とは異なり晴天だ。急遽、自転車で畔屋の山に出かけた。今年はガマズミの虫えいがとくに多い。今日歩いた山道に限って言えば、道端のガマズミは正常な果実が稀なほどだ。
 これ幸いと、一昨年からの念願である、タマバエの幼虫を顕微鏡で見るため、虫えいの果実を採取して林縁から山道に下りて空を見上げると中天に白い半月がくっきりと浮かんでいた。
 もしかすると、この蒼天の先の大宇宙にも劣らない興味ある神秘な世界がこの小さな虫えいの中にも存在するのではないか、とふと思った。→画像
 昨日(2014.10.11)畔屋の山に撮影に出かけて、異常なくらい実付きのよいガマズミに出会った。石黒でも実付きの良い木に出会うがこれほどのものには出会った経験はない。→画像

写真2007.10.18下石黒


             若葉の頃

写真2015.4.21田塚

           花期のガマズミ

写真2008.6.10下石黒松沢川沿い

写真2008.6.15下石黒

             果期のガマズミ
写真2008.10.5 下石黒


写真2007.10.12大野

写真2007.11.8大野

写真2009.12.8大野


        対生する葉と一対の葉の上につく実

写真2007.7.27下石黒

             葉の形の色々
先端−鈍(円形) 先端−鋭(倒卵形)
写真2007.11.8大野 写真2009.5.19大野


解 説
スイカズラ科
 日本全土に自生する落葉低木。幹は叢生する。高さは2〜4mでよく分枝する。
 葉は対生し長さ6〜15p。先端は鋭、鈍の両方が見られる(左下写真)。縁にはあらい鋸歯があり、表面には脈上に毛がある(下写真)。葉は形など広い倒卵形から円形の間で変化が多い。葉柄はやや長い。(下写真)
 花期は5〜6月。今年伸びた枝の先に直径5oほどの白い花が多数集まってつく。花序は常に一対の葉のある短い枝の先につく(左下写真)花冠は5深裂し雄しべは5本で花糸〔柄〕が長い〔下写真〕
 果実は、長さ5oほどのやや扁平な卵形で、緑から橙、鮮紅、暗赤と変化する。
 名前の由来は、ガマズミの「スミ」は「染めの意味で、この種の実で昔衣類をすり染めしたことによると伝えられる。その他、「噛むと酸い」から来たとするものもある。




         冬芽

写真2015.1.26畔屋

      芽吹き始まる

写真2015.3.28畔屋

         若葉
写真2016.4.2畔屋

      若枝の毛
写真2009.5.27寄合
 
         花

写真2009.6.1 寄合

  葉の縁の鋸歯と脈状の毛

 写真2008.9.20下石黒 

     果実と種子

写真2009.11.4 下石黒
       虫えい

写真2011.9.17下石黒
写真2011.9.17下石黒
 虫えいとの大きさの比較
写真2013.9.25畔屋
   虫えいの中の様子

写真2010.10.1下石黒
        幼虫


写真2013.9.25撮影

  一見異なる樹木のようだ
写真2013.9.25畔屋写真下-虫えい