民具補説 カラムシあか取り道具 私が子どもの頃(昭和のはじめ)は、昔から隣村の松代の観音祭り(7月19・20日)が近づくと、オ(苧−カラムシ)の刈り取りを手伝わされました。この時期のオから一番丈夫な皮が採れたのだと思います。 4時頃に学校から帰ると冷たいご飯に冷たいお汁をかけて、おやつ代わりに食べてから箕(ミノ)を着て鎌とニナワを持ってヤマ(作場)に出かけました。オは田と田の間の傾斜地に桑と一緒に植えてあり、それを根元から刈り取って背負うて家に運びました。
運んできたオは皮が一緒に取れないように注意して葉を取り除きました。 葉の取り方のコツは葉の付け根を横にひねるようにして一枚一枚取りのぞくことでした。この作業をすると決まって指が茶色に染まり洗ってもなかなか取れなかったことを憶えています。 背負ってきたオの葉を全部取り終わると祖母から教わったとおりに、オを真ん中から2つに折って皮をむき取るのでした。むき取った皮はきちんとそろえて置くことも祖母から厳しく言われたことのひとつでした。 しばらくは毎日、此の作業の繰り返しが続きましたので私たち子どもにとっても大変な手伝いでした。 むいた皮は少しずつにまとめて束ね、タネ(家の脇の池)水に2日くらい浸けて置いてから、祖母がその皮についたアカ(茎)やゴミを写真のような道具できれいに取り去るのでした。(※皮をむく前に水に浸けるやり方もあった) こうしてアカを取り去ると、ごくわずかな量になりましたが、乾くと白っぽい縮布の糸の素材という感じの物(青苧−アオソ)になりました。こうしてできあがったオは虫が食わないように桶の中に入れて冬までそのまま保管しておくのでした。 また、皮をむいた茎の芯はよく乾燥して囲炉裏の火をかまどや風呂がまに移すときに茎の先を少し割って火をつけて運んだものでした。当時はツケギやマッチもありましたが、こうして倹約につとめたのでした。 さて、冬になりますと、祖母はうす暗い石油ランプの下で、保管しておいたオ(青苧)を一本ずつ片方は口にくわえて片方は左手で先端をもって右手の爪で細かい裂け目(30p)を入れてから口から離して一本一本ていねいに裂くのでした。 そして、裂いた糸のように細いオを舌でなめるようにして指先で2本のオの先端をそれぞれ右より左よりに縒り(より)を入れて合わせるようにしてつないで桶(オ桶)に入れていくのでした。 子どもの私たちも夏に自分たちでヤマで刈ってきて皮をむいたオからこんなにも細い糸が作られるのが不思議に思いました。
今でも、私は、昔のことがなつかしく7月半ば頃になると毎年ヤマに行ってオを採ってきてカスを取り去って乾かしたオ(青苧)を畑の野菜を支柱に結わくときなどに使って重宝しております。 文・図 田辺雄司(居谷) |