イヌワシ
暮らしとの関わり
 昭和20年代前半までの、石黒でのイヌワシの姿は少しも珍しいものではなかったようだ。板畑の嶽では農作業をしていると一日のある一定の時刻になると必ず姿を見せたものだという。
 当時は未だイヌワシの生態について調査研究が専門家の間でも十分行われていない時代であり、石黒などでは「オオワシ」と呼んでいた。
 とはいえ、筆者が子どものころ(昭和20前半)に近くでイヌワシの姿を見たことはなかった。ただ、翼にくっきりとした白い文様のある大きな鳥が高空を舞う姿は見たことが何度かありそれがオオワシであることは聞いていた。
 母校石黒校にはイヌワシのはく製があったが、とくに興味をもって見た記憶はない。(現在は資料館に移され展示されている)
 だが、筆者は青年の頃にただ一度、イヌワシを間近で見たことがある。昭和34年〔1959〕初夏、地名ヤブツ〔山論争の舞台古地名ヤヒツ 標高350mほど〕で、買い求めたばかりのマルティン・ブーバーの「孤独と愛−汝と我」を尾根の木陰に仰向けに寝て読みふけっていた。ふと何か気配を感じ空に目を転じると30mほどの上空を旋回する巨大な鳥が目に入った。それは黒褐色に白い大きな斑紋のある、トビより一回り大きい猛禽類で、それが、私が近くで初めて見たイヌワシであった。
 不動の翼が風を切る音がするほど近くで見たので、その大きさには圧倒されたことを今も忘れることができない。正直のところ、臆病な自分は一瞬、恐怖心をもったというのが本当のところだった。 今でも、イヌワシが話題になるとその時に間近に見たイヌワシの巨大な姿に連動して、その時に読んでいたこの本が思い出される。
 余談になるが、この時読んでいた本は、以来今日〔2016〕まで50年余も眺め続けて来たが、その真髄を未だ理解できないでいる。

 最近は、石黒ではキツネの生息数が多くなりヤマウサギヤマドリなどの減少がみられイヌワシの生息環境としては悪化しているものと考えられる。
 上載のイヌワシの写真は、十数年前に伊平清士氏が撮影された労作のビデオ「イヌワシを撮る」から許可を得てお借りしたものである。
※ビデオ−風の精イヌワシが舞う上信越の山々
※追補(2016.9.15) 子どものころに祖母から、昔、畑仕事に連れて行った赤ん坊がイヌワシにさらわれたことがあったという話を聞いた記憶がある。
 ところで、今日、野鳥研究者のH氏より、このことに関連のある資料を見せ戴いたので参考までに記載したい。
→資料クリック

        獲物を捕らえて飛翔する様子

〔写真 伊平清士さん撮影〕
解 説
タカ科
 全長90p以上、翼の開帳2mも達する大型のワシ。
 一つのつがいが時には60平方キロメートルにも及ぶ広い行動圏をもつ。
 幼鳥と若鳥は尾の基部が白く翼にも大きな白斑があり目立つ。
 イヌワシの寿命は15〜20年とされ一度つがいになると生涯連れ添い同じところで生活するという。
 餌は主にノウサギヤマドリ、蛇など。2月に普通2個産卵し44日前後で孵化する。
 大抵は先に孵化した雛のみが育ち巣立ちをする。
 しかし、最近の調査によれば現在では生息環境の悪化から繁殖成功率は30%に満たないという。
 日本全国では現在約300羽の生息が確認されているが生息数の減少は止められない状況にあり、第二のトキとなるのではないかと懸念される。
 昭和40年に国指定天然記念物となった。



  幼鳥の羽ばたきの練習
 伊平清士さん撮影

 ノウサギをとらえて雌に示威 伊平清士さん撮影

   斜め横からの飛翔の姿
 伊平清士さん撮影

    獲物を探す様子
 伊平清士さん撮影