ヘクソカズラ〔ヤイトバナ〕
暮らしとの関わり
 子どもの頃、炎天下で草刈りをすると、必ずと言って良いほど肥やし桶〔人糞を運ぶ背負い桶〕のような匂いがただよった。それが、ヘクソカズラの葉が傷つけられた時に発する匂いであることを知ったのは大人になってからであった。
 ヘクソカズラはどちらかというと上品な感じのする蔓草である。花は、小さいながら、きりりとしていて美しい。(下写真)→参考写真。葉も果実も美しい。
 ときには冬、雪をかぶった果実のついた蔓に出会うこともあるが、その艶やかな果実の色にも思わず見とれてしまう。〔写真右下〕
 この蔓で編んだ篭は虫を寄せ付けないという話も聞いたことがある。葉の発する臭いも葉を虫による食害から守るためのものという。そう言われてみると虫に食われた葉を見た記憶はほとんどない。その後、虫に食われた葉は見かけたが2度のみである。タデ食う虫も何とやらのたぐいであろう。
 今朝(2016.8.6)、自宅の近くでヘクソカズラの花を数匹の黄色い毛虫が食べている姿に出会い撮影してきた。小さな花冠であるが肉厚であるので食草として十分その役割を果たすのであろう。
 ところで、その後、調べたところホシヒメホウジャクなどヘクソカズラの葉を食草とする蛾の幼虫が5種ほどいることが分かった。今朝見かけた毛虫はそれらのいずれかの幼虫である可能性が高い。その他、ヘクソカズラヒゲナガアブラムシという葉裏や茎につく特別の虫もいるということも知った。
 また、時にはヘクソカズラツボミマルフシという虫こぶに出会う。(下写真)やはり、花だけは訪虫を妨げるような臭気は発しないらしい。(花冠を傷つけて調べてみたい)
 また、筆者の観察では乾燥した果実の種子も、その独特の匂いを保持している。
 2012年から柏崎市海岸の植物の観察を始めたが、海岸のヘクソカズラの葉はやや厚く表面に光沢があるようだ。(下写真)
 今日(2016.11.16)家の近くの道路沿いで美しく黄色く色づいた葉に出会った。(下写真)

(写真上・右上2005.7.9寄合 右下2004.12.19下石黒)


        長く伸びる茎と対生する葉

写真2013.8.10下石黒

        葉に比べた花の大きさ
 
写真2005.7.9 大野

        沢山の花をつけたヘクソカズラ

写真2008.9.3下石黒

     
花冠の中の繊毛と花柱

写真2005.7.9下石黒


       細長い葉のヘクソカズラ

写真2008.10.8寄合

       葉がやや厚く光沢のある海岸種

写真2012.10.8笠島

              黄色く色づいた葉

写真 2016.11.16 長浜町

             虫こぶ

写真2008.8.18下石黒
解 説
アカネ科
 全国の山野の日当たりの良いところに多く見受けられるツル性多年草
茎は左巻きで長く伸び他物にからまり、基部は木質化し、まれに径1.5pにも達する。
 葉は対生し葉柄があり、長さは4〜10p、幅は2〜4pほど。茎と共に多少の毛がある。三角形にとがった葉間托葉がある〔下写真〕。葉の形は変化に富む(左下写真)
 葉の組織が傷つくと中の成分が酸素の働きで分解されて揮発性の成分にかわり、特有の匂いを発散する。動物の食害に対する防衛手段であるという。
 花期は7〜9月。葉の脇から短い集散花序を出しまばらに多くの花をつける。花には短柄がある。は小さな鱗片状であるがまれに葉状となる。ガクは短い鐘状で5裂し黄淡緑色、内面は紅紫色で5裂する〔左下写真〕。花冠は白色、漏斗形で先は開いて浅く5裂し内面は赤紫色で腺毛が密に生え花柱は長く伸びる〔左下写真〕。長さ1pほど。
 果実は径6oほどで緑色から熟すと黄褐色となる。晩秋には黄褐色に熟すが、この黄褐色の果皮のように見える部分は実は萼の変化したもので偽果皮とよばれる(下写真)
 偽果皮で中に2個の核があり分果にあたる。(下写真)
 名前の由来はその臭いから。別名ヤイトバナは花の中心の赤いところが灸〔やいと〕をすえた跡に見えることによると言われてる。



 雪をかぶったヘクソカズラ

写真2005.1.8下石黒

       葉間托葉
写真2005.9.3下石黒

  花縦断-腺毛と長い花柱

写真2013.8.10下石黒

   5裂するガクと子房

写真2006.8.30下石黒
 
      花を食べる虫

写真2016.8.7藤元町

   ガクが変化した偽果皮
写真2008.10.14下石黒
写真2009.12.1下石黒

     果実と2個の核

写真2011.2.27上石黒