茅葺き屋の大天井〔屋根裏〕の造り
                          田辺雄司
 昔の百姓仕事は、ほとんど家の中、特に秋仕事はほとんどニワ(板張りの作業場)で行いました。現在のように別棟の作業場など無かった時代だったからです。
 当時の農家の仕事、とくに冬仕事はワラ仕事が主でしたが、そのワラはすべて大天井にあげて置きました。数百束に及ぶワラが積み上げられていました。
 ワラは、ミノや縄、ムシロ等々様々なワラ製品の材料として、また、牛馬の敷き藁や餌などにも使われました。晩秋に稲こき〔脱穀〕が終わると藁を大天井にあげました。先ずひとまず茅葺き屋の二階〔曲がり屋づくりの曲がりの奧部分〕にあげて置いて、それを大天井にあげるのです。
 藁は大天井の奧からぎっしりと積み上げてきます。すでにその時には夏に刈って乾燥した家畜の餌にする干し草の束も場所を分けて沢山つんでありました。
 その大天井は長い年月にわたって囲炉裏の煙が隅々までまわり真っ黒になっていました。
 大天井の屋根裏の造りは、四方より屋根の形を構成する太いブナ材、ユキやチョウナで削った直径1尺〔30p〕ほどのサスとよぶもの〔図参照〕が一間半〔約3m〕ごとにあります。更に横に上から下まで横ヤナカと呼ぶ直径7寸〔約20p〕を太いサスに強く結びつけて頑強にしました。更にその上に縦ヤナカという木を縦に一定の間隔で結びつけてありました。→下図参照
 このような骨組みの上に茅葺きが行われます。茅葺きは下の方から順々にカヤを並べてカヤが滑り落ちないようにナル〔粘りのある細い雑木〕をあてて止めていきます。止め方はナルと天井裏の骨組みの用材に縄をかけてしっかり締めて結わくのです。図に示した横ヤナカや縦ヤナカに結びつけるのです。
 その時の作業では、ある程度慣れた人が屋根裏に入って、屋根上でナルでカヤをしっかりと押さえるための縄を通した針〔長さ約1.5m〕に通し縄を受け取り、サスやヤナカにかけて、再び射し込まれた針の先の穴に通してやるのです。勢いよく針を射し込む作業なので、安全のために「下−しも」「上−かみ」というかけ声とともに行いました。
 屋根裏でこの仕事をする人「針とり」とか「針受け」と呼んでいました。
 また、屋根葺きの作業の足場となる丈夫で長い棹も屋根裏の内側のヤナカにしっかりと結びつけて、作業が進むにつれて上へ取り付けていきます。こうして茅葺き屋根の一番上のグシの所までカヤで葺いて行きました。グシの所は長いカヤは使用出来ないので半分に折って束にしたもの〔タイマツと読んだ〕を並べて葺きました。上まで終わると足場を上からはずしながら屋根の表面の仕上げをして下りるのでした。
 屋根葺きでは軒のところ、特に角の所が一番多くのカヤが必要でした。

 茅葺屋の屋根裏は、百数十年過ぎた今も上道具の接続個所には四角や丸い木栓が使用されていて他は全部荒縄で巻き付けられていて、針金や釘などの金具は一切使用されていません長年煙で固められた縄は針金にも勝る強靱さをもっているのです。


文・図 田辺雄司〔居谷〕