コバヘギ 田辺雄司 私の小さい頃、「コパヘギ」と呼んでいた職人が来て土蔵の入り口で屋根材ののコバを作る仕事をしたものです。コバの材料となる木は、春先に残雪の中で素性のよい直径50〜60pの杉を2本ほど伐採して、6尺の長さに切断して皮をはぎ、家まで運んできておきました。 そして、田植えの終わった頃に再び職人が2人きて6尺の丸太を長さ35〜40pに輪切りにしました。 その輪切りにした丸太材の切り面の真ん中にナタで薄く筋をつけておいて、そこにヨキ〔マサカリの一種−図参照〕を当てて大きな槌で叩くときれいに半分に割れるのでした。更に、それを半分に割りそれを三等分したり、もっと狭い幅に割ったりしていました。いずれも丸太材の年輪を見て割っていくのでした。 そして、次は木で作った台〔図参照〕の間に割った木をはさんでおいて、細長いナタ〔図参照〕で木槌や手で叩いて厚さ2〜3oに割るのでした。幅は10・15・20pと各種に分けてきれいに1枚1枚剥ぎ割るのでした。凹凸のある板は刃が細長く両方に柄のついたナタ〔図参照〕で平らにけずりました。 こうして割った板材は、自分の横に幅40p間隔に2本の杭を打ちそこに結わくための縄を敷いておいて順々に積み重ねていくのでした。一定の量になると結わえて別の場所に移して、新たに縄を敷いてそこにまた積み重ねていきます。 今でも忘れられないのは、そばで見ていると強烈とも言いたい木の佳い香りがただよってきたことです。 お茶の時間になると、「野郎ども、ナタには触るな。触ると手が切れるからな。」と言い残して家の中にお茶のみに入るのでした。 その職人達は、夜明け前から割る音がしたので朝飯前から仕事を始め、夕方暗くなるまで仕事をしていました。おおよそ、一週間ほどで仕事を終えて次の仕事場に移動していました。
職人達は、竹釘の用意ができるとコバを屋根に順序よく並べて口に竹釘をくわえていて四角のゲンノウで素早く打ち付けるのでした。2、3人が調子を合わせるようにコバを素早く打ち付ける様子は見ていても気持ちの良いほどの熟練の技でした。鉄の釘も使いましたが主に風当たりの強いところとか、屋根の端々のコバを打ちつける時に使っていたようです。 屋根をふき終わると辺り一面に木の匂いがして、いかにも新しい屋根ができあがったという気持ちがしてうれしかったことを憶えています。 ※資料→コバヘギ道具一式 |