民具補説 コイスキ(コスキ) 昔は、真冬になり積雪が多くなりますと、毎日のように村人たちはカンジキをはきコイスキをもって朝早く外に出ました。そして、雪棚の先の雪をコイスキで片づけ自家の小路の道つけをしました。 また、屋根の積雪が多くなると、コイスキで茅葺きの屋根の雪下ろしをしました。 茅葺き屋の雪下ろしはまず、グシ(屋根の頂上の棟飾り)の雪を左右に割るようにして落としていきました。それから、上の方から一巡り二巡りと渦巻きのように掘りながら下りてきました。そして、一番最後の軒の一巡りは、コイスキで足場の雪を割って落としながら後ずさりをして茅葺き屋の雪下ろしを終わるのでした。 また、土蔵の屋根はコバブキ(杉の柾目を薄く剥ぎ割った木羽で葺いた屋根)でしたのでやはりコイスキを使用しました。コイスキは茅葺き屋根やコパ葺き屋根を傷めずに雪下ろしができました。屋根の雪はコイスキで豆腐のように立方体に雪を断ち割って投げ落とすので仕事もはかどりました。 その後、金属製の四角いシャベルと先のとがった三角シャベル(ケンスコ)が普及し始め、隣村の金物屋が背負って売りに来ましたが最初はほとんどの家では買わずにコイスキを使用していました。 しかし、使ってみると四角いシャベルは柔らかな雪も遠くまで投げることが出来て「こりゃあいいもんだ」と言って使用するようになりました。また、三角シャベルはかなりかたく凍った雪や春先のザラメ雪を掘るのに便利でした。とくに、3月になると苗代の上の雪に沢山の穴(背丈よりも深い)を掘って雪消えを促進しましたがその時にもシャベルは便利な雪掘り具でした。 こうして、雪掘りの時期が終わると、父はコイスキは布でよく拭いて、シャベルの金属部分には石油を塗って茅葺き屋の二階に冬まで収納しておくのでした。 三角シャベルがスコップと呼ばれ土砂を掘るのに使われるようになったのは私たちが高等科を卒業するころ(昭和20年頃)だったと思います。 文 田辺雄司(居谷) |