カリン(植栽)
暮らしとの関わり
 耐寒性があるため、石黒でも庭木に昔から植えられていた。筆者の生家にはなかったが、親類の家にあった。
 この親類の家の屋敷に植えられていたカリンについての忘れられない思い出がある。
 筆者が4、5才の頃、母親、に連れられてその家に病人の見舞いに行った。病人は、母の従兄で当時は不治の病であった結核の重病人であった。
 母は、病気の感染をおそれて、私にその家の庭先で待つように言い聞かせて家に入った。
 病床は大きな茅葺屋のデイ(出居)にあり、ガンギの戸が開け払ってあったので庭先からも見ることが出来た。病人の枕元に座って病人と話をする母の姿がよく見えた。
 (若くして亡くなったこの病人が、「乞食をしても良いからもっと生きたい」と言っておられたという話を中学生になってから聞いて、強い印象を受けた。)
 母を待ちわびた自分は、その家の土蔵裏にまわって見ると1、5mほどのカリンの木があり、黄色に熟した果実が数個ついていた。艶やかな色をして、鼻を近づけてみると、とても良い匂いがした。いかにも果肉は美味しいであろうと思った。
 周囲を見回し人影のないのを確かめて、素早く一つをもぎ取って急いで噛り付くと、ひどく硬く、渋味が強く、思わずほきだしてしまった。以来、期待を裏切られたカリンは、私には忘れる事の出来ない果実となった。
 現在もその家はあるが、土蔵は取り壊されてしまい、カリンの樹も見当たらない。さもありなん、あれからすでに75年余の歳月が流れているのだ、今では、過疎化が進み当時50軒もあった家が5軒となり集落としての存続も危ぶまれているのが実態である。
 一昨日(2018.12.15)、近所の方から庭の木になった大実のカリンの果実を10個ほど頂いた。その方はカリン酒を作ったとのことであった。自分は、仕事部屋に数個置いておいて75年前の懐かしい思い出の香りを楽しんでいる。

写真 2018.8.16 新田畑


                果実期

  写真 2018.11.18 新田畑

             初冬の果実

2006.12.19 落合

              果肉-1
 写真 2018.11.18 新田畑
              

解 説
バラ科
 原産は中国、渡来の時期は不明。落葉高木。耐寒性がある。
 高さ8m、径35㎝ほどになる。
樹皮は緑色を帯びた褐色で滑らかでうろこ状に剥がれ落ちその跡が雲紋状となる。
 葉は柄があり倒卵形で長さ4~7㎝ほど。表面は無毛、裏面は初め毛があるが後に脱落する。縁には細かい鋸歯がある。(マルメロとの区別点)
 花期は3~5月。5枚の花弁から成る白や桃色の花を咲かせる。ガクは倒円錐形で反り返って捲く。雄しべは多数で長さは花弁の半分ほど。
 果実は楕円形あるいは倒卵円形で長さは10㎝内外。黄色く色づき芳香を放つ。
 果肉は固く生食には適さないが、砂糖漬けや焼酎漬けなどにされる。また、咳止め、利尿などの生薬として利用される。
 材は堅く、家具材として利用される。



       幹の様子

写真 2018.8.16 新田畑

   たわわについた果実

2014.10.29 桐原

        果実
写真 2018.11.7 藤元町

       果肉-2
 写真 2018.11.18 新田畑
ほうこ