シュウカイドウ(植栽)
 子どもの頃から、石黒で出会ったことはないばかりか名前も知らなかった。
 「シュウカイドウ」という植物名を知ったのは、高校生のころ夏目漱石の著書を通じてであった。何という作品であったか思い出せないが、「シュウカイドウ」という名前に出会い、文豪の作品の中に登場したというだけで、なぜか特別な植物に思われ、その後の出会いを期待した。
 今調べてみると、漱石の句集に「夕暮の秋海棠に蝶うとし」の句があるようだが、句集は読んだ記憶がないので小説か随筆の文中に出てきたものと想われる。
 いずれにせよ、その後、30年ほど過ぎ、植物全般に興味を持つようなってから、知人の庭で初めてシュウカイドウとの出会いに恵まれた。一見、だらしないとも言える草姿であるが、葉の形、花の形などからエキゾチックな雰囲気も感じられる花で、漱石以来の自分の想像と期待を裏切ることはなかった。
 そのおり、知人から株分けしてもらって石黒の生家跡の山小屋の庭に植えた。茎が軟弱で容易に折れてしまいそうな植物だが、耐寒性もあり石黒の厳しい冬も越し年々株を増やして今ではあちこちに生えている。半日陰で湿り気の多い場所を好むようだ。また、今夏(2018)の37度を越える猛暑にもめげないほどの耐暑性もあるようだ。
 また、シュウカイドウは種子とムカゴと塊根の三つの繁殖法をもった植物であることも知った。
 「断腸花」という別名は、愛する人と引き裂かれてしまった女性の涙からこの花が咲いた、という中国の逸話に由来すると言われているが、そう思って見ればどこか悲し気な草姿でもある。

 写真2018.9.19下石黒 


              花期後期
  
写真 2006.10.1 下石黒

                   葉と花
写真2018.9.19下石黒 

               雄花と雌花
写真2018.9.19下石黒

              雄花ののつくり

写真 2018.9.22 松美町

写真 2018.9.22 松美町

              花期から果実期へ

 写真2006.10.1 下石黒

      塊根となり毎年新しい塊根をつける地下茎

写真2018.10.10松美町


解 説
シュウカイドウ科
 江戸時代に園芸植物として中国から渡来した帰化植物
 地下茎塊茎となり表面にはひげ根が生じる。
 高さは70pくらいまで成長する。葉は互生し長さ20pほどで左右非対称のハート形(左上写真)で縁には鋸歯がある。葉は蓚酸を含む。
 花期は8〜10月。茎の頂上から花序を伸ばして2〜3pほどの薄紅色の花を開く。雌雄異花同株で雄花は上方に正面を向いて開き、中央に黄色い球状に集まった雄しべが付く。4枚の花被片のうち左右の幅の狭い2枚が花弁で上下の幅の広い2枚はガクである。(左下写真)
 雌花は下方に垂れ下がり下向きに開く。中央の黄色い雌しべは3個に分かれ、先は、らせん状になっている(下写真)。雄花雌花ともに同様の花を咲かせ、三角錐状の子房を持ち小型の花弁が1枚の事が多い。
 花期を過ぎると花は茶褐色に変わり、羽が3枚ある楕円形のさく果を付ける(下写真)。この種子の外に開花後に葉腋珠芽を付け、それによっても殖える。果実は3翼をもち中の種子は極小(微細種子)である。(下写真)
 名前の由来は中国名「秋海棠」の音読みによる。



      雌花 めしべ
写真 2018.9.22 松美町

      雄花 おしべ写真 2018.9.22 松美町
写真2018.9.19下石黒 

      雄しべ
写真 2006.10.12 下石黒


      花序の分岐部
写真2018.9.19下石黒 

     果実と種子


写真2020.11.5松美町

        無性芽

写真2018.10.10松美町