セッケイカワゲラ
暮らしとの関わり
 石黒では「ユキミシ−雪虫」と呼んだ。セッケイカワゲラは、長く雪に閉ざされる石黒の人々にとって、春到来を知らせるうれしい昆虫であった。
 子どもにとっては、セッケイカワゲラが現れるころになると、朝、固く凍った雪上を藁ぞりや木ゾリに乗って遊ぶ楽しい時季がやってくる。
 2月下旬になると「ユキミシが出たすけ春がそんま来るいね」などと村人の会話にも登場した。
 ところで、セッケイカワゲラは12月の中旬より雪上に現れるといわれるが、降雪の毎日続く石黒では、その生態はどのようなものであろうか。実際に調べてみたい気もする。→右欄解説によれば実に興味深いものだ。
 セッケイカワゲラが現れると春が近いと言われたわけは、2月の下旬ともなると雪も降り止み晴天の日もあり、セッケイカワゲラの幼虫の姿が目につき易くなったということか。いや、おそらく太陽光線を頼りに進むといわれるこの昆虫は晴天の日にしか活動できないのであろう。とすると上流に向けて歩く距離は多雪地では短くなるのではないか、いや多雪地は積雪期が長いからそれは問題ないだろう、などといろいろ考えてしまう。
 いずれにしても、セッケイカワゲラは氷河期の生き残り(遺跡種)といわれ、まだ、謎に包まれた部分の多い昆虫の一つといわれている。それだけに一層興味をそそられる昆虫だ。
(※北越雪譜には「セツジョ(雪蛆)」と記されており、後に高田測候所所長の泉末雄氏が「雪虫」と名づけた伝えられている。他の文献によれば上野益三氏により新潟県妙高高原で発見、命名されたとある。)

※雪虫の研究に生涯を捧げた河野広道博士の言葉。

(写真2006.2.26 下石黒)



写真2011.3.13下石黒 政栄

解 説
クロカワゲラ科
青森から兵庫までの分布から知られている。
 春〜秋は川底で過ごし冬季に雪上にあらわれ翅はない。
 成虫の体長8〜10o、幅1oほどで翅はなく、全身黒色でアリのような体型をしている。
 幼虫は夏の間は川底で眠り秋になると落ち葉などを食べて急速に生長し雪がつもる頃に陸上にあがる。
 陸上にあがったセッケイカワゲラは、ひたすら上流の自分が生まれたところに向かって歩く。(あるデータによればその距離は20qにも達するというる)。
 2月頃に交尾し雄は交尾後に死んで、雌は3月ごろになると川の水面に産卵する。
 卵は流されて下流の親が成虫となったあたりで幼虫となり休眠状態で秋になって目覚めて急速に生長して冬に成虫となり雪上に現れるというのがこの虫のライフサイクル。
 また、川沿いを上流に向かう能力は太陽光線関係があることが実験で分かっているといわれている。

 棲息に適した温度は−10〜+10度くらいで餌はユスリカやトビムシの死骸や木の皮やコケなどだという。