すじまき
                           田辺雄司
 春3月、晴天の朝は雪が固く凍るので、ハコモッコを使って前もって土手に向かって雪穴を掘っておいたところからベト〔土〕を運んで苗代にまきました。雪の消えを早めるためのものでしたが、あまり厚くまくとかえって熱をさえぎって逆効果になるので薄く平均にまかなければなりませんでした。
 天気のよい日は1日に10p以上も消えるので、どこの家でもベトまきをしたものでした。それから、苗代の上の所々に穴をほりました。大雪の年は2mもの深さの穴で雪を投げ上げるのも大変でした。
 こうして何とか3月の末までに苗代の雪をなくして苗代作りに取りかかるのでしたが、まわりには未だ残雪が多い頃なので水は痛いほど冷たいのでした。三本グワを使った田打ちは裸足でしたから足が真っ赤になるほどで藁を数束持っていっておいて火を焚いて足を温めてから再び田に入るのでした。
 田打ちの後は「田コギリ」といって打った田の土の稲株を平グワで細かく砕く作業をします。そして鍬で溝を切り、3尺〔約1m〕くらいのうねをつくって鍬である程度平らにしてから、板を使って凸凹がないように念入りにきれいにならして仕上げてから水を張りました。
 一方、種モミの方は最初に塩水に浸し浮いた籾はすく上げて取り去り種モミを精選した後で水で洗って塩分を取り除きます。そして、32〜33℃の風呂の水に3〜4晩ほど浸して芽切りをしました。また、昔は牛馬の敷き藁を積んだ堆肥が発酵熱を発するので、その上に小さな俵〔約直径25・長さ50p〕に種モミを入れて3、4日置くのでした。こうしておいて白い芽〔根〕が1〜1.5o伸びたところでスジマキをしたものでした。
 スジマキは天気の良い風のない日が最適でした。まだ、水は冷たいころでしたが、出来るだけ均一に播くように丁寧に播いたものです。均一にまくには出来るだけ上から播く方が分散するので良いといわれました。中には小さな苗代は畔からふりまくと平均に播けるという人もいました。
 しかし、7畝もある苗代はそうもいかず、一列ずつ品種を間違わないように留意しながら播いたものです。
 スジマキ後、3、4日すると芽も1pほどになります。その頃に「芽干し」とか「夜干し」などといって、夕方、静かに水を払い苗床を丸出しにしておきます。すると横になっていた芽も真っ直ぐに立ち上がり根も地中に伸びていきます。朝には再び水を張ります。これを2、3日続けますと、しっかり根も張り芽はうっすらと黄緑になります。その後は気温が上がるにつれてぐんぐん伸びていきました。
苗取りを待つ苗代

 あたりの雪も消えて畔にも雑草が青々と伸びる頃になると、苗が伸びすぎ細い苗にならないように、時々水を払い日光が根本にも届くように心がけました。
 また、夕方になるとズイ虫の予防のため誘蛾灯をつけてニカメイ蛾を油を張った水に落として殺したものでした。
 このように、温床苗代が普及するまでの水苗代は準備を含めて管理が大変なものでした。