苗打ち
                         田辺雄司
 田かきの鼻っとり〔田かき馬の誘導〕の手伝いが終わると、田植えの苗打ちの手伝いがありました。
 田植えは毎年7、8人のトウド〔手伝い人〕を頼んで賑やかに行われるのでした。苗打ちは、苗をあらかじめ平均に田にまいておいて、植えている途中で足りない時には投げて渡すという役目でした。苗をくれと言われるとその人の後ろに投げるのでしたが、上手に投げられず手前に落ちたりすると
 「この子ばっかしゃ、だいじな股まで濡れるがなぁ」などと言われ、みんながどっと笑い、賑やかなものでした。
 そのうちに、父がテゴを背負い、茶釜をぶら下げてやって来て、 「さあ、皆の衆、畔に上がって休んでくれや」と大声で言うとみんなが田からあがり畔のひろい場所に車座になってすわりました。
 そこで出されるものは、にぎりめしに塩をつけたもの、味噌をつけたものとタクアンなどの漬け物でした。みんなが「旦那衆に来なければ、昼前中飯なんて貰って喰わんねえ」などと言いながらおいしそうに食べていました。朝の5時から始めた田植えでしたからお腹がすくのも当然だと今にして思います。私たちも中飯を食べ、すぐに次の田に苗をまいて夕方まで苗打ちをしたものでした。
 また、田植えの時のご馳走で今でも忘れられないのは、しわの寄ったジャガイモの皮をむいたものと干し大根、ゼンマイ、カンピヨウ、それに身欠きニシンをすまし汁で煮たおかずで、その美味しかったことを今も忘れられません。