鉄びん
 昭和三十年代半ばまでは、石黒では囲炉裏での煮炊きは普通のことであった。プロパンガスが普及するまでは、どこの家でも、毎日のご飯やお汁や煮つけ等おかずも囲炉裏や竈(かまど)が使われた。
 囲炉裏には、夏冬常時、茶がまと鉄びんが置いてあった。
 冬季の暖房用の囲炉裏には常に茶がまが自在鉤に掛けられていた。鉄びんは一度、湧かしてからホド(火床−囲炉裏の中心部)に近づけて置いた。こうしておくと現在の電熱ポットと同様いつでも、お茶のお湯として使うことができた。
 茶がまのお湯は牛馬の餌に入れたり、洗い物や、時には、ぬるい風呂に入れたりした。子どものころに、風呂がぬるいと言うと、母親が茶釜を囲炉裏から持ってきて直接風呂に注ぎ込んだ。「火傷をするといかんから、端によれ」と言われて立って風呂の端によると、母親は茶釜の熱湯を注ぎ込んだ。すると心地よい熱さのお湯が腰のあたりに触れた時の感触を今でも憶えている。
 鉄びんのお湯が少なくなると、茶釜からお湯をその場所で補給できたことも便利であった。