民具補説 モチノシ板 モチノシ板は臼でついたモチを薄くのばす時に使う板で、どこの家にもありました。昔は、モチはほとんど一年中と言ってよいほど食べていました。 特に冬季の朝食はモチの日がほとんどでした。月遅れの正月近くになりますと白いモチを4臼くらい、粉モチを2臼くらいつきました。(1臼5升) 粉モチは、春にとって乾かしておいたヨモギをゆでて、くず米(タテセンの下)の粉に、さっと混ぜ合わせて木製のセイロに入れてかまどで蒸すのでした。 その日(たいてい1月28日)は朝から一日中モチつきでした。ついたモチは先ずモチノシ板の上において手である程度押しのばしてからモチ押し棒を使って直径120pほど、厚さ1.5pほどにのばしました。 のし板でのしたモチは、座敷いっぱいに広げて夜、凍みないようにゴザをかけたりして寒さを防ぐのでした。
翌朝早くから、父は半日がかりでモチを縦11p、横7pほどに切るのでした。昔のモチは大型で現在真空パックにして売られている餅の4倍以上であったでしょう。切ったモチは古いオヒツや木箱などの中に藁くずを敷き、白いモチと粉モチを別々にして入れておきました。 食べるときには先ず耳(端)の部分から食べ始めて四角のモチは後で食べるようにしたものでした。 そして、餅つきが終わりますと父は正月のソバ作りに取りかかりました。チャノコバチの中に浅黒いそば粉を入れ、その中にヤマゴボウ(オヤマボクチ)の綿状の繊維を水で煮た汁と混ぜてこねたものを作ります。一方ヤマノイモを秤で量ってすり鉢の中ですり、そば粉と混ぜてこねたものを作ります。そしてその2つを混ぜてこねるのでした。なかなか時間と力の要る仕事でした。 こうしてこね終わると2升粉の場合は4個に分けて、モチノシ棒で押し伸ばし、薄くなるとモチ押し棒にクルクル巻いて伸ばし、くっつかないように細かなそば粉をふりかけて幅20pほどに、たたむように折り曲げて、幅の広いソバ切り包丁で、ソロバンを定規代わりにして少しずつ動かしながら細く切りきざむのでした。切ったソバも寒中は凍みるので一斗箕の中に入れて布団などをかけておいて、正月のお客のもてなしのご馳走としてその都度ゆでて出すのでした。 また、居谷ではモチ押し板のことを盤石板(ばんじゃくいた)とも呼んでいました。それをネズミ捕りに使う家もありました。仕掛けは表面を下にして10pほどの棒をはずれやすいようにつっかい棒にしてそこにモチを縛りつけておいてネズミがモチを食べると棒が倒れてネズミが板の下敷きになるというものでした。(下図) 私の母はこれを「ばんじゃく落とし」と呼んでいたことを憶えています。 餅のし板 ネズミ捕りに使った思い出 文・図 田辺雄司(居谷) |