民具補説
              昔のアイロン(火のし)
 私が子どもの頃は(昭和10年代)、衣服を洗濯してもそのまま着るのが普通でした。当時の布は木綿でしたので現在の衣服に比べて皺になりやすいものでした。
 ある日、祖父がシャツの皺を伸ばす道具を買ってきました。それは下の図のような銅製の丸い入れ物に柄のついた柄杓のような形で底は二重の造りとなってあました。その丸い入れ物に囲炉裏のオキ(熾き)を入れて適当な温度に温めて布にあてて皺を伸ばすものでした。

 祖母は祖父に「そんな物を買ってきて、銭がもったいない」と当座は言い争っていましたが、結局は母が使い始めました。「しわ伸ばし」と呼んでいたように記憶します。
 母が使っているのを見ていると皺がきれいに消えてきれいな布となるので便利な道具だなあと感心しました。
 学校に行ってこのことを話したら、先生が「それはアイロンというものだ。東京に行けばどこの家にもあるそうじゃ。」と言われました。私は、不思議に思い「東京にも地炉(囲炉裏)があるのですか」と聞いたところ、先生は東京では電気アイロンで電気を使って温めるのだとの返事でした。
(※)
 当時は居谷は電灯がなく
(※)ランプやロウソク、カンテラが使われていたので、とても驚いたことを憶えています。

1937年(昭和12)の調査によると、電気アイロンの普及台数は313万台。電気アイロンは実用性が高く、戦前の家電製品の中では普及率トップの商品であった。
※石黒村の配電は大正12年(1923)であったが、居谷、寄合集落は大幅に遅れ、昭和17年(1942)である。
→参照 衣食住-その他-
  文・図 田辺雄司(居谷在住)