海人草とDDTの思い出

                        大橋洋子

 昭和30年代初期の頃まで、人糞を畑作物の肥料にしていた事もあって、ノミやシラミの他に回虫とも共存する時代がありました。学校でも対策をとり、カイニンソウを飲ませられたり頭にはDDTをかけられたりしたものです。
 シラミの駆除には保健係なども手伝って髪の毛をかき分けながら、もう一人が噴霧器でDDTを吹き掛け、かけ終えると女子は持参の手拭であねさかぶりをしました。(DDTはノンバキの時、畳やむしろの下にも撒いたものです)。
 
忘れられないのは虫下しの海人草です。薬は煎じ薬をヤカンから茶のみ茶碗やお碗に注いでもらって飲む状態でしたが、鼻息を止めてやっとの思いで飲み干したものです。
 そして・・・・・・・
 あまり想い出したくない光景ですが虫たかりの私は飲んだ後が大変なのでした。カイニンソウを飲んだ後は兎に角お便所に行くのが怖くてどうしょうもありませんでした。が、せっぱつまって便所に向かう時の気持は何とも言えない恐怖心でした。意を決しての用便ですから済んだ後は見なければよいものを、何故かちらっと下を覗き込むと回虫が頭を持ち上げている光景に体中がプルプル震えたものでした。でも、これだけではなく、もっと身の竦む事が起こるのでした。肛門に挟まったまま下に落ちないのがいると、幼い頃は母に頼りましたが高学児童になって自分で始末するようになると、この時ばかりはプルプルどころではありません、足はガクガク心臓はパクパクして気持が悪いというよりも、ただただ身のすくむ想いでした。今や、その回虫も日本では昔話のような存在となりました。

先年、回虫と花粉症やアトピーアレルギー等との関連を指摘する学説も話題になりました。その真偽は分か
りませんが、小学生のころ学校からの帰り道、肩に黄色く降りかかる杉の花粉を手で振り払いながら歩いたことを憶えています。でも、当時は花粉症もアトピーアレルギーのような病気は聞いたこともありませんでした。