雪を利用するユキツバキ
                       大橋英一


私の郷里〔石黒〕の山にもユキツバキが多い。ユキツバキは林の中のものより林の縁など日照条件のよい場所のものに、花が多く咲く。果実は10月中旬に裂開するので、種子は自然に地表に落ちる。極めて乾燥に強い。冬を越した種子は6月ごろに根を出し、それから幼軸が生長して地上に現れる。ユキツバキは地下子葉といって、子葉では地上に出ない。地上に現れるのはいきなり本葉である。現実は暗い林床が多いので、発芽しても生き残るのは難しい。幸いにして林の縁とか伐採跡地に順調に生育したとしても、開花までには7、8年かかるので、種子で繁殖するものは極めてすくないようだ。では、ユキツバキはどんな方法で繁殖更新するのであろうか。
ユキツバキは根元からたくさんの枝を出して入り組んだ藪となる。毎年の積雪に押し倒されるが雪が解けるとともに、新しい幹ほど垂直に立ち上がるが古い幹は地表近くに伏せたままである。それに落ち葉や腐葉土が堆積すると、芽を出し新しい幹を地上にのばす。地中にも不定根を出す。数年後には新しい幹は近くの不定根に支えられて生活するようになる。やがて元の株につながっていた部分が枯れて、新しい一株のユキツバキとして独立する。こうして雪圧を利用して自然の取り木で更新しているので、ユキツバキの寿命はどのくらいかよく分からないが、幹の年輪が百年を越すものはほとんどない。〔以下略〕
  
 大橋英一著「草木随想」の「雪を利用する植物」から