大根取りと貯蔵法
                         田辺雄司
 毎年11月の10日をすぎると、どこの家でも大根とりをしたものでした。とった大根は人が背負ったり、牛馬で運んだりしていました。運び終わると大根の葉を切り離し、タクアンにする大根と冬期間に食べる大根を分けました。
 そして半切れ〔大きなタライ〕の中に冷たい沢の水をひいて藁で作ったタワシで洗いました。洗った大根はよく水を切って、タクアン用を私の家では100本ほど別にして、他は二階に6尺×4尺ほどの囲いをムシロでつくりその中にモミガラをはさんで並べて積み重ね上は藁で覆って、大根が凍らないように重ねて保存しておきました。
 一方、タクアンにする大根は縄で編み囲炉裏の上につるしておいて正月前のすす掃き時、乾燥してくたくたした編んだ大根をはずして父がドスンドスンと床に落とすのでした。それを翌日、母が縄からはずしてススをきれいに払い落としてから、シッチョナベで湯を沸かしぬるま湯で藁のタワシで念入りに洗いました。そして、乾かして水切りをした後、翌日大きな桶に、米ぬかに塩を混ぜて大根を漬け込むのでした。
 大根の葉はもったいないので一株の葉も棄てないで残らず縄で編んで日の当たる軒下につるして雪の降る前に取り入れてウサギの餌にしたり、鶏に細かく刻んでくず籾と混ぜて食べさせたりしました。また、時々茶碗の欠けたものを砕いてその中に混ぜて食べさせていました。家族の食事でも干した大根菜の芯の部分をみそ汁や雑炊に入れて食べました。一種独特の香りがあり甘くて美味しいものでした。
 冬の間は大根煮を毎日のようにして食べましたが、とても体が温まり美味しいものでした。また、鮭の頭や尻尾を切って火にあぶったものを大根煮に入れるととても美味しかったことを憶えています。私はいまでも時々この料理を食べて昔を思い出しています。
 春になって、残った大根を祖母が天気のよい日に朝から細切りに切ったり短冊に切ったりしたものを囲炉裏にかけたシッチョナベに入れてゆでました。それをスイノウですくい上げて湯気の立っているものを雪の上にスノコを敷きその上にムシロを敷いてその上に一面にひろげました。春の天気でからからに乾くと菓子屋から買ってきたブリキの菓子入れ一斗缶をいくつも用意しておいてその中に入れて保管しておきました。そして、時々、ジャガイモや、サトイモと一緒にすまし汁で煮たもおかずを作りましたが大変美味しい物でした。
 秋に貯蔵した大根はモミガラの中に入れておくため一本も腐ることなく保存することが出来ました。そのモミガラは大根の水分のために少ししめっているため屋外で燃やしました。
春の切り干し大根干し

 昔は、たくあん漬けのほかに野沢漬けなどを毎日の食事に食べたり、茶ゾッペイ〔茶請け〕としてだされましたが、白菜漬けは余り沢山作らないので大事なお客に出すだけでした。
 タクアンづけは、春までこうして食べられ、塩加減が今年は良かったなどと言いながらポリポリと良い音を立ててみんなが美味しそうに食べたものでした。
 今想うに、昔の漬け物は今の漬け物に比べ美味しかったように思います。あの味わいは何処へいってしまったのだろうなどと、つい考えてしまいます。