山芋堀りとトコロ堀り
                          田辺雄司
 10月は、稲刈り、稲かけ、稲あげと1年中で最も忙しい頃でありましたが、雨が降り稲仕事ができない日に、短い柄の唐グワを持って山にヤマノイモやトコロを掘りに出かける人もいました。
ヤマノイモ
 
 この頃になるとヤマノイモの葉が黄色くなり生えている場所が一目で分かります。ヤマノイモには早生と晩生があり早生の山芋はおろし金でするとすぐに灰色に変色するものが多く見た目がよくありませんでした。ですから、できるだけ晩生のヤマノイモを掘るようにしたものでした。しかし、山芋のツルは、はねる〔地上の部分で自然に切れる〕と場所が分からなくなりますので秋遅くなってからでは掘ることはできません。中には、あらかじめ目印をしておく人もいたということを聞いたこともあります。
 また、山芋掘りはできるだけ急な斜面で掘ると仕事が楽ですから、場所を選ぶことが大切でした。道具は、柄の短い唐グワにトングシ〔先をとがらした親指ほどの太さの木の棒〕があれば足りるのですが、ナタも腰に下げて行くと便利でした。
 堀り方は、ツルの根元を唐グワで掘っていくと芋の部分が真っ直ぐに地中に伸びています。また、前年の古い芋がしなびた状態でその年の新しい芋に添うように伸びていますからそれも目印にして芋を傷つけないように根気よく掘り下げていきます。その時、芋の周りの土をていねいに取り去るのにトングシを使うのでした。長芋は1mを越えるものもありますので最後まで気を抜かないで折らないように掘り出します。
 掘り出した芋は竹カゴなどに入れたり、カゴがないときには、ボイ〔低木〕の真っ直ぐなものを1mほどの長さに4、5本切って掘った山芋に添えて両端をナワでしばっておくと背負って歩いても折れないのでした。
 こうして、掘ったヤマノイモは、すり下ろしてトロロ汁にしたり、正月のソバに入れて食べたりしたものでした。また、ヤマノイモは結構好い値段で売れたと聞いています。

 それから、トコロ掘りもしたものでした。トコロは、ヤマノイモと似ていますが葉の形が丸みをおびています。トコロ掘りは、ヤマノイモ掘りに比べ簡単で、20pも掘るとごつごつした芋〔根茎〕がぎっしりと組み合わせたような形になって現れてきます。芋には長いひげ根がたくさん生えています。
 そのひげ根を切り取るにも手間取りますが、ゆでるにもなかなか手間がかかりました。
トコロ
食味は苦く最初なかなか口にするのは容易でないのですが食べ慣れると苦みの中にほのかな甘みを感じるようになり美味しいと思うになるのでした。また、中には苦みが少なく甘みのあるトコロもあり、昔は、カマスにいくつも掘る家もあるくらい好まれ、長い冬の間、お茶請けや酒の肴にもしたものでした。
 私は、今でも山からトコロを掘ってきて、好きな人に分けてやったり自分で食べたりしています。トコロの味は、故郷の味の一つであり、食べるたびに、あのほろ苦い独特の味わいが昔への郷愁を誘うように思います。