納豆ねせ

 納豆をねせるというのは単なる食品加工ではなく、神饌な調製であった。大豆を洗って浸し、大鍋に入れ煮こぼれないようにおよそ7時間も煮る。
 この間に苞と中に入れるオット〔夫〕を作り、縄を並べ筵を敷き藁くずの準備を行う。苞に用いる藁の芯を大きくつかみ、根元から2、3寸〔6〜9p〕のところを固くしばり、中に入れる大豆の量が多い方がよく藁に納豆菌があるといわれていた。
 苞の型を作るときは、新しい手拭いでほおかむりをして藁の結んだ根元を後ろへ回して藁をひろげ、頭へ覆いかぶせ巻くようにして前側で握って結ぶと女性の物を想像した舟型の苞が出来上がる。そして藁の芯2本をカンピョウで結びのオットという男性を想像して作る。
  納豆は水物といわれ、大豆を入れる前に苞とオットにお湯を霧にして混しておき、大豆が煮えると炉の隅におろし、妻が苞をひろげ夫が大豆を煮汁ごと茶碗ですくい入れる。そして真ん中にオットを入れると妻が手早く包み、夫が藁で真ん中を結び用意した筵の上に並べ、藁くずをはさみ重ね終わると残りの煮汁をかけ、筵を巻き縄で縛り、熱を冷まさぬように手早く行う。
 この作業は2人で行いそれにふさわしい唱えごともあって、それは人間の生殖行為を想定したもので夫が「納豆がせ」と言うと妻が「やじがせ」と言う。また「納豆は何処へ行く」と言うと「オヨソラヘヤジカケニ」と夫婦で唱えながら行う。
 そして屋根裏のソラへ引き上げ、藁束の間にねせ藁をのせて重石をして、38〜40度の熱を出し出来上がり、これを急にさましてはいけないといわれていた。
   
茂野寅一・茂野宗平共編「故郷の記録−藤井の里」より抜粋
    〔藤井の里→川西町藤沢〕