板畑の地主小作関係と本家分家関係
 自然集落(共同体)として板畑をながめるとき、結合基盤としての生産関係を家どうしの関係の中に見なければならない。板畑の生業の中心は農業である。農業においてはその生産基盤である農地の所有関係としての地主小作関係を無視することは出来ない。
 板畑の家々は地主小作関係から大きく地主自作農階層に分類することが出来る。前者の家々はすでに述べた重立衆が中心で、耕地を自ら所有し・耕作し、一部の家ではさらに小作農にこれを耕作させた。後者はこれを耕作し、地主に小作料を納めた。
 一般に地主と小作の間のこの土地の媒介とする関係は単に小作料を納めるという経済的な関係にとどまらず、一般生活まで身分的隷属を生み出し、公私にわたり使役と奉仕の関係を伴うことが多いが、板畑においても基本的なはこの様な関係を地主自作農階層との対峙として捉えることが出来る。これをもっと具体的に表現するならば、その支配従属関係は重立衆の板畑における強い支配力にその一部を見ることができよう。
 しかし、現実に板畑における地主・小作間の支配従属関係を見いだすことは困難である。これらの関係は日常的な生活慣行にとけ込み、あるいは本家分家間の儀礼としてその他、既成の家同士の関係の中に含まれて、意識されずに存在している。特に本家分家関係と地主の小作関係との間には不可分の関係が存在することは板畑最大の地主のあった総本家について端的(A)を地主とする小作は非常に多い。しかし、このうち、総本家の直接の分家についてみると興味深いことが分かる。総本家の分家(B群の家)は明確に次の2種類の系統に分けることが出来る。
@重立で自作農である分家
−−−−−−B1・B2・B3・B4・B5
A本家直割の小作である分家−−−−B7・B8・B9・B10・B1      
........................ 1・B12・B14
この両群の家々を対比すると多くの差異が見いだされる。特徴的なものをいくつか挙げる。
・@群の家は自作農として経営においては独立性が高いのに対し  A群の家は本家に年貢を納めて従属的である。
・@群の家は重立として板畑における格が高い。
・@群の家には多くの分家があるが、A群ではほとんど分家はない。
・A群には「ナゴイモチ(名子家持)」と呼ばれる奉公人分家(非血縁分家)が含まれている。
 この中で特に名子家持について述べれば、これは本家の家族が独立して新しく一家成したのではなく、他の家の男子が本家に長期にわたって奉公した後に、本家の助力によって分家を創立したものである。この分家の主体者は生家に自分を分家独立させるだけの余力がなかったために、総本家に奉公することによって総本家から独立したのである。他の分家とは同様に分家であるとはいえ、本家との関係は隷属的であったと言える
 こうした諸状況からA群の小作である分家は、単に系譜的な意味で本家分家であるのではなく有力な本家に対する弱小な分家の従属関係、親方子方関係であると考えられる。これに対して@群の分家は系譜的な関係により強く影響された、本家からはより独立的な分家であるといえよう。
 板畑における本家分家の関係は、この様に単に血縁関係による家どうしのつながりつながりとして見るのではなく、その分家が創設されたとき援助関係と、その後の家どうしの支配従属関係を反映したものと考えていく必要があろう。特に板畑では地主小作関係が家どうしの関係に大きな影響をあたえていると言える。


              図−1 本家分家関係
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           図−2 戦前の地主小作関係
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法政大学学術紀行研究会 高柳町調査研究報告1975から抜粋