桐の下駄材
                          田辺雄司
 昔はたいていの家のまわりには、桐の木が植えてありました。大人になってから聞いたことですが、桐の木は他の木と異なり燃えにくく火に強いので土蔵の周りに防火のために植えたとのことでした。その上、桐は成長が早く女の子が生まれた年に植えると嫁入りするときにはタンスが作れると伝えられ多くの家で昔から植えられてきたのでした。
下駄材の塔積み方

 私が小学校の頃は、桐の木を売ると、3月の頃に下駄屋がやってきて残雪の上に倒して枝を切り払い幹や太い枝は一定の長さに輪切りにして片づけて置いて行きました。
 そして初夏のころに2人でやって来て、切断して置いた桐の材木を前の庭まで転がしてきてそこで下駄の幅に縦挽きして更に下駄の長さに切って、それを直径2mほどの塔に積み上げるのでした。高さも随分高く積んだものでした。上の人にポンポンと下の人が投げ渡し、投げる、受け取る、積むの作業が調子よく進むのに見とれてしまったものでした。こうした作業によって見る間に下駄材の塔は高くなりますが先の方は細めてとんがり帽子のような形でまとめるのでした。こうした塔をいくつも作るのでした。後で聞いたところではこうしておくとお盆過ぎまでに大分乾燥するものだそうです。
 お盆過ぎにはまた下駄屋がやってきて、塔をくずして1つ1つをうまく組んで縄で上手に荷造りして人や牛馬の背で車の来るところまで運び出すのでした。この運搬人足に出て思わぬ現金がもらえるので村人たちは喜んだものでした。

 また、桐の木はこうして伐採すると、その切り株から立派な芽が出てぐんぐん生長するので育てやすい木でした。