木挽き
田辺雄司
昔は、土台替えや壁板の張り替えなど家の修理をしなければならなくなると自分の家の杉を切って用材とするのが普通のことでした。
3月頃に1、2本の杉の木を切り倒し枝をきれいに払って、皮をむき、たいがい6尺〔約180p〕の長さに輪切り、そのまま夏まで自然乾燥したものでした。
7月ごろになりますと木挽き職人が2人ほど来て、6尺の丸太を斜めに立て家の人の注文通り、4分板、8分板、1寸板など、その板の厚さに合わせて挽き割るのでした。挽き割る前には丸太に、作る板の厚さに合わせて墨の付いた糸をピンと張って糸をつまんで持ち上げ放す鮮やかな黒い直線が丸太に現れるのでした。
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前挽き〔木挽きが使うオオガの一種〕 |
それから「前挽き」と呼ぶ幅の広いノコギリで挽くのでした。見ていると決して急ぐことなく、時々丸太の裏に回って正確に線に沿ってノコギリの切れ目が進んでいることを確かめていました。その作業の様子は急がず、休まず、あくまでも気持ちを集中して根気よく、まるで時計の振り子のように腰を動かしてやっているのでした。2人で仕事をしていても仕事中にはほとんど話は交わしません。お茶の時間になると、楽しそうに話してうまそうにキセルでタバコを吸っていたものでした。
木挽きのノコギリは重いのに、よくもまあ一日中続くものだと思ったものですが、やはりご飯も沢山食べたものでした。2人は仕事が終わるまでは幾日も泊まっているので母や祖母は食事のまかないが大変でした。
また、木挽き職人は朝が早い、朝起きると玄関先で盛んにノコギリの目立てをしている。目立てでは、使うヤスリの使い方、特に角度などによって切れ味が違うというが、お互いにそのコツを情報交換するということはなく、背中合わせでいつも目立てをしていました。目立てのコツは長い経験と勘によって体得できる秘術のようなものであったのかも知れません。
その後、動力製材機が普及すると丸太を台に乗せて押す人と引く人2人で見る間に板の山が出来るのには、驚いていました。よく学校から帰ると製材小屋に見に出かけたものでした。
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