ダイモチヒキ
                          
 ダイモチヒキは、主に家を建てる時とか砂防工事で木材を使うときに行われました。また、戦後しばらくしてから材木商人が入ってきて杉やケヤキの大木を買い付けたときに業者の依頼で行われました。
 ソリを引く縄は、男衆が3人ほどで、よくワラを叩いて3本縒りで固く仕上げました。
 ダイモチヒキのソリの組み立には、ヤマフジの皮を使いました。この皮は非常に強靭なので切れることがなく安心して使えたからです。
 ソリが組み立てられると御神酒をソリと縄に5合ほど注ぎかけて、これからの作業に事故がないようお祈りをしてから、引っ張る人たちも御神酒を一口ずついただきました。。
ダイモチゾリの組み立て

酒はダイモチヒキには付きもので、特に材木商に頼まれたダイモチヒキなどでは午後になると、材木商に酒を出させるために、わざとソリが動かないような素振りをして、材木商〔山師〕に「こうなっては、ソリに一杯飲ませないことには動かないだろう」などといって酒を出させたものでした。酒が出るとソリに少し注いだ後、皆も一杯飲んでから、引っ張るとソリは軽々と動き出し夕方暗くなるまで引いたものでした。
 材木商の方も心得ていて毎朝だまっていてもソリの傍には2升の酒が置いてあったものです。
急な段差の場所で宙に浮くダイモチゾリ

 ダイモチヒキでは、「ソリ元」という役目が一番大事な仕事でした。ソリ元はいわばソリの舵取り役で、一杯飲んでも決して気を緩めることの出来ない仕事でした。ソリ元は二人一組でソリの左右についてソリを誘導するのです。ソリ元の二人は気の合う者同士であることが必要でした。
 私もそんなことが好きなのでやった経験がありますが、とくに上の図のように急なガケをソリが降りるときには大変であったと憶えています。平地を進んでいって急に段差のある場所に来るとソリは宙に浮いてしまうような状態になり、その時が一番危険でした。
 ソリ元の1人が気を緩めるとソリはバランスを崩してしまいます。このときがソリ元の一番緊張するときであり、ソリ元の腕の見せ所でもありました。その代わり平坦地ではソリ元はソリにつかまっているだけで、腰の痛いときなどソリに乗っていることもありました。
一本ゾリの使い方

 また、昭和50年代に、富山県から材木商人がブナ材買い付けに入り、一本ゾリを持ち込んで使い方を教えました。それを使って材木を山から平地まで運びましたが、かなりの急斜面でも1人でソリを操り沢山の材木を運べるのに驚いたものでした。

 文-田辺雄司 (石黒在住)