民具補説 苧桶 私の記憶では、苧桶は薄い板を何枚も貼り合わせたような用材で作られていました。径25p、高さ30pほどでしたが大変軽くできていて、中蓋も付いていました。おそらく、ワッパのようにヒノキを薄く裂いたもので出来ていたものと思われます。
私の記憶にある苧桶は煤けたように真っ黒な色をしていましたが使い込まれていて、どこか黒光りを呈してとても価値あるものに見えました。また、中フタがあり中にはハサミや針が2、3本、祖母が使用する歯の欠けた櫛などが入っていたように思います。 こうして毎晩続けて麻績をやるので苧桶の中はやがて糸でいっぱいになります。すると、祖母はボロを丸めてその上に静かに糸を巻き付けるのでした。直径20pほどになりますと巻き終わりの所に目印に黒糸を巻きそれが末端であることが一目で分かるようにしてありました。そのような玉を5、6個つくるのが冬の仕事でありました。 やがて春が訪れると十日町や小千谷から買い付け人がやってきて小型の真鍮製の棒ばかりを糸玉を秤り代金を置いていきました。 私も麻績に使う青苧の材料となる苧(カラムシ)刈りを手伝いました。毎日のように学校から帰ると裏山に上って出来るだけ太い苧を刈り皮むきまで手伝いました。 祖母はその駄賃として時々1銭か2銭くれました。もらったときにはうれしくてすぐに隣村の店まで走っていって黒砂糖のあめ玉を10個ほど買って来ては弟や妹に分けてやりみんなで「甘いなあ」などといいながら食べたことを憶えています。 苧桶の図 文・図 田辺雄司 (居谷在住) |