ハナットリの思い出
                      田辺雄司
 春の田かきになると4年生くらいになると、子どもが「ハナットリ」をさせらたものだった。ハナットリは馬や牛の鼻に2mほどの竹などの棒をしばり付けてそれを持って田んぼの中を縦横に4回くらい引き回す役だ。
 牛は足が遅いからゆっくり歩けるのだが、馬は足が速いばかりか臆病なので少しでも深いところに入ると驚いてバタバタと走り出した。私たちは子どもだから、竹の棒を離してしまうと、自由になった馬は田んぼの中を走りまわる。だが、後ろには田かき万鍬〔民具参照〕が付いているので馬が怪我をしないかとシリットリ〔万鍬を持つ人〕は追いかけて捕まえようと必死だった。仕方なく万鍬をはずして綱だけを持って馬の尻を叩いて静めたものだった。 しばらくすると馬を落ち着いて仕事をしたが、夕方になり仕事を終えて家に帰る頃は、さすがの馬もトボトボしたあしどりだった。もちろん、ハナットリも泥だらけになってトボトボと歩いて帰った。 家に帰ると大人は、馬の洗い桶という特大の桶に風呂の湯をくみ出して馬の脚を丁寧に洗ってやった。
 私たち子どもは、当時8kmもある泥んこの道を朝夕通っていたのだが、田んぼの中を歩くのはそれとは比べ物にならないほど疲れた。
 あまりにもくたびれて夕食も食べないで寝てしまったうほどだった。時には女の子は子守だから楽だろうな、とか、早く田植え休みが終わらないかなぁなどと思うこともあった。


参照資料→万鍬の取り付け方