前ページへ      原文  P.10   次ページへ     読み下し文
  
宝暦六丙子五月十一日処の火災により、終に 豫炎に懸り
御堂庫裏残らず灰燼せり。九世先住秀道の代 再建
成就せしに、時なるや又々明和二乙酉正月二 十六日誤って出火し
寺院炎々たり境地暠々たり、ああ三男火宅の 教へ眼子
さえぎり消滅無常の習い目にふれて、これを 如何ともする事
なし。菩提樹もこれを切られ祇園精舎も焼失 せり。妻子も
財宝も久しく保つべからず。是についても只 願うべきは極
 
 意訳文
       
宝暦六(1756)酉子五月十一日、近所の
火災により、ついに類焼し、御堂庫裏残ら
ず灰燼となった。
九世、先の住職秀道の代に再建成就したと
いうのに。時なるか、またまた明和二乙酉
(1765)正月二十六日誤って出火してし
まい寺院は炎に包まれ境内は燃え上がる炎
に照らされて昼間のようだ。
ああ、三男火宅(三界安き事なし、なお火
宅の如し)の教え眼子さえぎり、消滅無常
の習いを目の前にこれをどうすることも
できない。菩提樹もこれを切られ、祇園
精舎も焼失してしまった。妻子も財宝も
久しく保つことはできない。
これについても只、願うべきは極