20080212 昔は、我が故郷石黒でも、越後上布の糸をカラムシの繊維青苧(あおそ)から紡ぐ作業が女衆の冬仕事として盛んに行われていた。
 私の母は子供の頃に見た、糸つむぎをする母の祖母のことをよく語って聞かせてくれたものだ。
 話によると、祖母が常に心がけたことは、気持ちを平らにもって作業することだったという。気持ちが乱れていると糸の出来具合に影響するというのがその理由だった。
 なぜか、私は、丈余の雪に降り込められた薄暗い部屋で、苧筍(おけ)を傍らにカラムシの繊維を髪の毛ほどの太さに裂いて縒っている曾祖母の姿を、あたかも自分が見たかのごとく映像として自然に心に刻み込んだ。
 たまたま、昨夜、テレビに出演した十日町市の老女が私の母と同様のことを語っていたのを聞いて、即座に母のこの話を思い出し、曾祖母の苧(お)うみの姿が浮かんだ。
 歳と共に間近に見ていたことも、だんだん忘れていく中で、繰り返し聞かされた苧うみをする見たこともない曾祖母の姿は不思議と心の中に褪せることなく生き続けている。
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