天明の飢饉における飢え人救済願 | |
原文 | 読み下し文 |
恐れ乍ら書付を以て願上げ奉り候 一、 私共村々去秋、御代官様御検見後、長雨降り 続き、是まで伝え聞きざる急変作にて立毛残ら残らずシイナ青立ち 枯れ穂に罷りなり驚き入りお嘆き申し上げ奉り候えども願後 に付きお取用なられ難き旨、仰せ聞かされ、よんどころ無く江戸御 見分まで願いあげ奉り候えども、相かなわず是非なく刈 立候ところ、雨雪降り続き何十年にもこれ無き大風吹き 続き田畑立毛大半吹き落としその上数日の長降りにて 刈り稲久しく田場に積み置き候うち、粒翻り落ち腐れ に相成り、前代伝え聞かざる大凶作に付き百姓夫喰尽くし 其の節、だんだんお願い申し上げ奉り候えども、重ねて御利害 仰せ聞かされ候間、よんどころなく家財諸道具売り代米穀 -備考- ①検見後→田畑の収穫量の調査後 ②急変作→気候や病虫害で急に作柄が悪化すること ③シイナ青立ち→稲の籾に実が入らず稲が生育が遅れること ④天領であったので江戸表に嘆願した ⑤粒翻り→水分を含んだ籾が発芽作用で割れること ⑦夫喰→農民の食べ物 五穀・豆・芋など |
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少々宛て買調え、または葛、蘚(こけ)、藁餅の類をもって取り続け 候ところ当春より家財質物など置き尽くし、金銭才覚 仕る様これ無く、隣村袖乞いなど仕り候ても一粒合 力つかまつり候ものこれなく、よんどころなく、正月右の段々 有体に申上げ飢え人夫喰御拝借願い上げ奉り候ところ 仰せ聞かされ候は、定免地、破免地これなき村々は 夫喰願御取り上げなされ難く、この段江戸表より厳しく 仰せ渡され候て厳重に仰せ聞かされ願書御下げ 成し下され恐れ入り罷り在り候、然る所に村方なるべくにも 取続き候もの少々宛ても之有り候、蘚、糠の類まで も残りなく飢え人へ配分仕尽くし飢え人諸道具は勿論 種子籾に至るまでも売り払い皆質物などに致し切り、夫 -備考- ①蘚(こけ)→あるいは、薜(へい)か。 ②藁餅→難読で、「餅」と思われる文字は他の植物などかも。 ③合力→金品を与え助けること ④定免地→平均収穫量をもとに年貢を決める田畑 ⑤破免地→凶作の年 |
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喰調うべき金銭才覚の手立てこれ無く葛、蘚の類 ばかりにて露命取続き候につき、最早過分飢えやせ衰え いたわり、葛、蘚、藁餅の義も相成り難く命ばかりを相保ち 空しく伏せおり候数おびただしく村役人共取りはからうべき 手段これ無く何とも迷惑至極嘆かわしく存じ奉り 追々、飢え人死に候義目前に存じ奉り候、恐れ乍ら御慈 悲のご勘弁を以て急速飢え人御見分成し下さり 植え痩せ人者命御救い下し成され置き候様願上げ候 右願の通り聞し召しわけなされ、早速御見分成し下さり御救い 成し下され置き候はばこの上なく有難く存じ奉り候、依って村々 連印書きつけを以て願上げ奉り候 以上 -備考- ①迷惑至極→困惑の極み ②御勘弁→お考え お許し ③見分→立ち会って検査すること |
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読み下し文・備考 文責 大橋寿一郎 |