石黒の植物 補説
           ウルシかき職人
 ウルシの木は石黒では今では、たまに見られる木の一つとなりましたが、昔はヤマ(作場)の周りなどによく見られる木でした。ウルシかきにウルシを売るために植えたものでした。
 ウルシは秋になると美しく紅葉しますが、皮膚の弱い人にはかぶれを発生させる恐ろしい木でした。当時は良い薬などもなく、水に浸したモチ米をすり鉢ですりつぶして糊状にしたものを塗る人もいました。
 私が子どもの頃(1930頃)には、よくウルシかき職人が村にやってきてウルシかきが行われていました。
 この頃にはウルシは漆器のみならず、船の接着剤や爆弾などの軍需品の製造にも使われたと聞いています。
 ウルシかきは、田植えの終わる頃にやって来るのでした。ウルシを取る木はある程度大きな木で下部の幹が直径が20~30㎝ほどのものだったと思います。
 ウルシかきは何本かの木を探して持ち主と交渉して契約がまとまるとウルシかきの作業にかかりました。作業に使う道具は、私たちには見たことないようなものが色々ありました。鎌のようなもの、先端が鍵のように曲がったもの、二つに割れたもの、ヘラのようなものなど何種類か持っていました。(下図参照)
 そのほか、自製の孟宗竹の一節を残した長さ20㎝ほどの入れ物や小型の桶の他に短い梯子を持ち運んでいたように記憶しています。
 見ていると、金属の先端が二つに割れたノミのような道具で木の幹に横に溝を平行に数本立てていきます。溝の場所は上下の位置とはずらして水分の吸い上げを妨げないように配慮したもののように見受けられました。木が枯れてしまうことを防ぐためだったのでしょう。(下図参照)
 次の作業は、こうしてつけた溝からにじみ出るウルシを何回かに渡ってヘラで掻き取って竹の入れ物に溜めていく作業でした。竹筒の中にウルシがある程度溜まるとソバにある桶の中に静かに注ぎ込み最後の一滴まで丁寧に移していた姿を憶えています。
 ウルシかきの作業は秋の稲刈りの始まる頃まで行われました。

            文・図 田辺雄司 (居谷在住)