石黒の動植物補記

       ヤマゴボウ(オヤマボクチ)の葉
 例年7月半ばになりますと村では、カヤ場のショウヤク(雑草を刈り取りきれいにする作業)がおこなわれました。
 晴天で暑い日には「日かげめぐり」と言って、午前中は西側のカヤ場、午後は東側とカヤ場と日陰の涼しい場所で作業をする習わしでした。作業はカヤ株の間の雑草を刈り取ったり、実生で進入する雑木を取り除く仕事でした。暑い日にはマムシも涼しいところを好むらしく3〜4匹も捕らえる人もいました。
 私も家業である百姓を継いでから、毎年このカヤ場のしょうやく作業に参加してきましたが、色々な事が思い出されます。ある年には、みんなが朝、カヤ場に集まったのですが、梅雨明け前の豪雨となりカヤ場と集落の間の居谷川の増水や田の水の管理が心配なので作業は中止したこともありました。
 オヤマボクチの葉裏の綿毛
 また、カヤ場しょうやくの頃は、カヤ場の縁の日当たりの良いところに、オニユリの赤い花が咲いていて、カヤ株の間には今ではあまり見かけなくなった薬草のセンブリやゲンノショウコなどが沢山ありました。  
 それから、昔は、どこの家でもこの時期にヤマゴボウ(オヤマボクチ)を採取しました。ヤマゴボウは正月のソバ作りにどうしても必要なものだったからです。
 採取したヤマゴボウの葉は編んで軒下にぶら下げてよく乾燥し、ムシロの上において手でもむとバリバリと音を立てながら葉の表面は粉々になり、裏側の繊維(綿毛)だけが綿状に残るのでした。
 更に、この繊維をザルの中に入れて年寄り達が囲炉裏にあたりながら火にザルをあてるようにして丹念にもむのでした。ゴミはザルの目から下に落ちますが葉についている筋(葉脈の部分)が細かく折れて繊維に付着しているので、それはひとつ一つ爪先で取り除きました。こうしてようやく正月のソバに使うヤマゴボウができあがるのでした。
 ソバ作りでは、そば粉一升(1.8リットル)にヤマゴボウの繊維(綿状のもの)を軽く一握り、お湯の中にに入れてとかしたものを入れてこねるのでした。そしてある程度こねたところでヤマイモをすり下ろしたものを混ぜて更によくこねるのでした。
 ソバの中にヤマゴボウの繊維を入れるのはつなぎをよくするためでしたが、沢山入れても足りなくても用をなさず適量に入れることがつなぎも歯触りも良いソバを作るコツでした。ヤマイモもつなぎをよくすると共に歯触り舌触りをよくする効果がありました。
 今では、小麦粉を混ぜたり、布海苔や卵を入れるなどしますが、昔は十割ソバでありましたから、ソバ作りは熟練を要するものであったのです。
                 文  田辺雄司(居谷)