大根の年取り(でえこや)
                         田辺雄司
 毎年、11月になると寒くなり朝は霜で真っ白で、村の道の馬や牛の足跡にたまった水にザイ(薄い氷)がはります。子どもの頃には、こんな朝の登校時に田んぼなどにはった氷をとって食べたことを憶えています。
 当時は秋仕事が多いため1ヶ月遅れの正月でした。11月10日過ぎになりますとあちこちの家の人達が「でえこや(10日の大根の年取り)」が終わったすけ今日はでえこ取りだいのう」などと言って馬や牛を引いて大根の収穫をしていました。この時季になりますと紅葉も終わり木の葉はちり尽くして林の中や山道には木の葉が敷かれたように落ちていました。
 畑で抜き取った大根はツナギ(藁十数本を束にしての先を結んでつくった縛りひも)で2カ所を結わいて牛馬の荷鞍に6束ほど折らないように注意してつけて運びました。
 家では、翌日に大根についた葉を切り取り、大根はオオハンギリの中に掛水を引き込んで、藁のタワシで洗い土をおとしました。洗った大根は漬け物用と冬期間食べるために貯蔵するものに分けました。漬け物用は余り太くなく真っ直ぐなものを選び藁縄で編んで地炉(囲炉裏)の上あたりに数十本から百本くらい下げてほどよく乾いてところで大きな桶に漬け込みました。切り離した葉の方はは一株残らず縄で編み少しでも日の当たるようなところ軒下に下げて干しました。 干した菜は冬になると、細かく刻んでカボチャと一緒にお汁に入れたり雑炊の具にもしましたがとても甘味があり香りもよいものでした。また鶏や飼いウサギの餌にもしました。
 子どもの私には、大根には年取りがあるのに、その他の芋類や菜っば類には正月がないのか不思議に思い親に聞いてみました。親は大根はいつまでも畑に置くと中にス(大根やごぼうなどの心しんに多くの細い孔を生じること)が立ったり貯蔵しても腐れが早いからだと聞かせてくれました。長年の経験から収穫の適期を決めたものだったと思います。
 しかし、現在では大根は雪にあわせると甘みが増すと言われていますが、品種改良がされたものでしょうか。それとも昔に比べると冬の平均気温が上がったせいでしょうか。
 いずれにしても、私の頭の中には11月10日が来ますとでえこの年取りを思い起こして当時を懐かしんでおります。
 私が子どもの頃にはこの大根の収穫がすむと漬け菜(白菜)の収穫もありソバや粟の取り入れも終わり冬囲いに取りかかり、冬囲いの最後に家の周りの縁の下を藁束でふさぐネジワラと呼ぶ仕事で冬囲いは終わりました。
 そして、それからは家の中での土臼挽きなどの仕事に取りかかるのでした。
 ところで、でえこや(大根の年取り)は、今考えると秋仕事の進行のひとつの基準になっていたようにも思われます。