スジとりとスジ洗い
                             田辺雄司
 スジの善し悪しによって、その年の稲のできばえが決まると言われたほど稲作ではスジは大切なものでした。それだけにスジとりは農家にとっては大事な仕事でした。
 スジとりでは、まず、その品種ごとに一番良くできた田んぼを見極め、さらにその田んぼのどの場所の稲がスジに適しているかを判断しなければなりません。自分で判断出来ないときには篤農家といわれる人から見てもらい刈り取るのでした。
スジの芽だし

 良質なモミは平均して一束〔8把〕から2升は採れると言われました。また、一反歩に必要なスジの量はおおよそ2升とされていましたが、昔は水苗代であったので種もみを播いてから腐る場合もあったのでスジは余分にとって置いたものでした。
 スジもみ用の稲は、ハサにかけて良く乾燥させてから足踏み脱穀機で回転を落として傷が付かないように丁寧に脱穀するのでした。そしてフルイにかけてボッツァラ〔穂状に何個かついた籾〕を拾い出し、更にトウミにかけてゴミとシイナ〔不稔実〕を分けて天気のよい日に地干し〔ムシロにひろげて天日で乾かすこと〕を幾日も続け噛んでみて石のように固くなったところで小さな俵の中に入れて囲炉裏の上につり下げて置くのでした。スジ俵をつり下げた太い縄にはネズミ返しと呼ぶ一尺真四角くらいの板を通してありました。
 春、3月の末になると、どこの家でもタネ〔家の脇の池〕の近くでスジ洗いをしました。半切れや桶の中に塩水を入れて品種ごとに種モミを浸して良質なモミとそうでないモミを選別するのでした。そのときの塩の分量が大切なので卵を入れてみて半分ほど沈むくらいの塩水が最適とされていました。そこで浮いたモミはザルですくい取って除きました。〔浮いたモミは水洗いして乾かし田かきの時の牛馬の餌にした〕そして沈んだモミは良く水洗いしてから再び麻袋や小型の俵にいれてタネの水の中に浸しておくのでした。そこで十分にスジモミが水分を含んだところで牛馬の敷き藁を積んだ堆肥の上などに置いてムシロをかけて堆肥の発酵熱を利用して目切れをしました。3日ほどでモミから白い芽がちょこっと出ると被しておいたムシロを取り払い徐々に日光にあてるようにし芽が1pほどになったところで苗代の床に播くのでした。