大秤と供出米検査
田辺雄司
「こんちわ」と言って土間から座敷に、村の達者な人2人と米の検査員が入ってくる。
肌寒い頃なので、地炉端でお茶をのみ煙草を吸いながらしばらく世間話をして検査員が「よし、はじめるか」と声をかると、みんながいっせいに立ち上がり米俵の積んである座敷へ行く。
まず、米俵の真ん中に大秤のカギを通して、モッコ担ぎの棒を量りの革ひもに通して2人がかりで大秤と俵をつり上げる。検査員が秤の分銅を動かして目方を量り荷札に「17貫○○匁」などと書き、用紙にも書き込む。
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大秤と分銅〔80s用 |
それから、サシと呼ぶ先のとがった特殊の用具を俵に刺しこみ中の米を少量取りだして、四角の入れ物にあけて米をよく見て等級を決める。等級がきまると1等〜等外まである大きな柄のついた判子に紫色のインクを付けて勢いよくボンと叩いて判を押す。こうして、一俵一俵を検査していく。
検査が終わると再び地炉端でもどり、燗鍋〔カンナベ−酒の燗をする鍋〕で酒を温めて飲みながらしばらく休むと次の家に移動する。
昔〔昭和のはじめ〕は稲刈りが遅かったので、米の検査は晩秋の寒さが身にしみる頃であった。
検査の終わった米は、当時は米倉庫がなかったので村の個人の土蔵のいくつかを借りて供出米倉庫に使っていたので、翌日は、検査の終わった米俵を土蔵に共同作業で運び込んだ。〔供出米倉庫に使用された土蔵では毎年くんじょう(燻蒸ー害虫・ネズミの駆除)が行われた。そのときには、土蔵の二階の上がり口の戸には目張りをして、二階のタンスなどの金属部分は錆びるので新聞紙をはりつけるなどした。〕
飯米を入れた米俵は大秤で量ることはしないで、一斗枡で四斗入れて保存しておいた。その他、大秤は大豆や小豆などを業者に売るときにも使われた。大秤は使用しないときには集落の区長の家で保管されていた。
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