カンノ焼き
                           田辺雄司
 カンノ畑は、自分の土地で草木の茂っている場所、土地を持たない人は集落の共有地の場所を選び、お盆前にきれいに草木を刈り放しにしておき、盆明けの18、9日の頃の風のない日の夕方、上の方に火をつける。
 よく見守りながら順々に下の方へと燃してくる。枯れ草のないところには他の場所から運んで満遍なく灰が平均に残るように注意する。 1時間でも2時間かかっても全部燃え尽きるのを見届ける。日が落ちてあたりが薄暗くなるとあちこちに残り火が見えるようになる。それを残らず入念に消しておく。夜になって再び燃え盛ることのないようにするためだ。私が知る限りカンノ焼きで火を余したという話は聞いたことはなかった。
 カンノ焼きの後にはどこの家でも、ソバを蒔くのが普通だった。ソバを蒔いても種が見える様では蒔き過ぎとよく言われ、薄く粗雑にバラバラと蒔くのがよいと言われていた。その後、鍬で起すのだが普通の畑打ちとは異なり、根を枯らすために、株を掘り起こしてひっくり返して根を上にしておくので、カンノ打ちは力の要る仕事であった。
 ソバは秋に刈り取り、両手で一掴みほどの束をつくり、3束づつ立てかけて一週間ほどそのままの状態で乾かし、家に運んで家族総出でソバ落としをしたものだった。〔子供の頃、よく乾いたソバの葉を手の中でよくもんで細かくしたものを口に含むと甘みがあったのでよくなめたことを思い出す〕

 カンノ畑は土が新しいので作物はよくできた。
 場所のよいカンノ畑は、その後もずっと畑としてジャガイモや豆、小豆などを植えた。場所の悪いカンノ畑には杉の苗木を植えたが、他の場所に比べ苗木の生長は一段とよかった。