降雪前の冬囲い
                           田辺雄司
 石黒は、11月を迎え木枯らしが吹く頃となると木々の葉はほとんど落ちて寒々とした日が続きます。中旬ともなるとアラレまじりの雨が降る日もあり、厳しい冬の前ぶれをを感じます。 
 この頃に大根や白菜などの収穫をして家や納屋に入れ、白菜を保温のために新聞紙に包んで貯蔵しました。
 そのほか、家の周りの縁の下に風が入ることを防ぐため「ネジワラ」と言ってワラを2、3把ずつ束ねて縁の下に押し込んで隙間なくふさぎました。また、ネズミが入らないようにと杉の青葉を折って差し込んでおく家もありました。
 それから、家の戸の外側には羽目板(落とし板)を6尺間、3尺間に取り付けます。積雪とともに落とし板を順にはめていきます。積雪3mにもなると家の中は暗くになってしまいます。家の中が暗くなると、いっそう寒さが身にしみるように思ったものでした。
 また、庭の花木類は丈夫な竿を数本立てて先端を太い縄でまとめて結び縄を幾重にも回して囲いました。さらに寒さに弱い木はカヤを刈って来てカヤの株を囲い木の上で結わえて下の葉の方を広げるようにして覆いました

 それから、ネズミに皮を食われる花木には、根元の所に杉の青葉を敷き詰めておきました。杉の青葉はネズミが嫌うと言われたからです。
 樹木は枝下3メートルほどに生長すると、ある程度は雪を超すことができるので丈夫な添え木をして上から縄で枝つりをしておくこともありました。
 枝が折れるのは初雪の頃、水分を含んだ重い雪が降って風のない時でした。特に栗の木は落葉が遅く葉が雪を止めるので折れることがありました。また、春の雪消え時に積雪が減っていくときに働く、上から圧迫する力は想像をこえるほど強力なものなので、春先に周りの雪を掘ってくれるのでした。
 それでも折れた枝は元通りにして折れた所に縄をしっかりと巻いて吊っておくと秋には元通りになりました。
庭木の冬囲い

 今でも、真冬には時々雪のために木の折れる音が聞こえてきます。杉は素性の良い若木が特に折れるのでした。十年近く木起しをしてようやく雪を越せるほどに生長した杉の木が折れると本当に残念な気持ちになります。折れた木も昔は竿にしたり薪にしたりしたものですが、現在ではそのまま朽ち果てています。


 80歳にもなると庭木の囲いもままならず、雪で折れても仕方がないという有様でまことに残念なことであります。