葛〔くず〕粉
                          田辺勇司
 子どもの頃、風邪を引いてご飯が食べられないと何時も母は葛粉をかきしてくれて、囲炉裏端で食べた記憶があります。その中にほんの少しだけ砂糖を入れるだけで甘くてほんとうに美味しいものでした。
 高学年になってからは、葛粉が食べたければ自分でクズの根を掘って作れと言われ、カイゴヅル〔クズの蔓〕〕の根っこを掘りましたがなかなか太いものがありませんでした。
 
 太いクズの根 写真2012.5.8居谷
 それでもできるだけ太めのものを掘って、よく泥を落として、厚い皮を取り除いて、そのまま叩きますと汁が飛び散るので短く切断してすり鉢の中で押しつぶすようにしてすりこぎ棒ですり、その後、すりつぶした皮の部分をその器の中で水で洗って取り除き、器の水中に沈殿した葛粉が流れ出ない様にして2、3度上水を流しこぼします。そして天日に2、3日干しますと少し皮の色がついて白くありませんが葛粉ができあがるのでした。
 一定量の葛粉を作るには相当のクズの根が必要なため、こうして作った葛粉はジャガイモから作った葛粉とは別格で大切に親たちは戸棚の中にしまって置くのでした。
 また、カタクリの球根から作る方法もありましたが、こちらは掘り出した球根をすりつぶして布袋で葛粉と同様に漉して作るので簡単なのですが、林床では意外と深い所にある上木の根もあり球根を掘り出すことは大変な作業でした。
 一番簡単なのは、ジャガイモを金おろしですりおろし手ぬぐいなどの布で作った袋に入れて水の中で静かに白い粉が出なるまでもみます。その後袋の中の粕は捨てて、水は白い粉が沈殿するのを待って、上澄み水を器を傾けて静かに流しこぼすのです。これを2、3度してから沈殿した白い半液状のものを天日に当てて水分を蒸発させて粉状にするのでした。できたものは、我が家では茶ずつの不要となったものに入れて保存しておいたものでした。
                  〔居谷在住〕