納豆づくり
                           田辺雄司
 昔は、ナットを作るのに、納豆つくりに用いる菌があるわけではないので、稲わらに自然に付着している納豆菌を利用しました。
 まず、乾燥したワラのクズ(ホウの部分)きれいに取り除き、ひとにぎり余りのワラでツトッコを作ります。
 そして、一晩水につけた大豆をシッチョウナベで煮て、指でつまんでつぶれるほどになると、2人で注意してナベを囲炉裏の自在かぎから下ろしてニワ(作業場)に運びます。作業場には豆をすぐに入れられるようにツトッコなどの用具を準備しておきます。
 ハンギリの上に竹でつくったスダレを置いて、その上にムシロを広げてその中に保温のためのワラくずを沢山しいて置く。そして、ツトッコをちょうど半分に折り曲げるようにして中央を凹状にして、そこにお椀一杯の熱い豆を入れて包むようにしてしばります。私の家ではその時にツトッコの中に豆と一緒に麹(こうじ)をひとつまみ入れてかき混ぜました。
 
この作業は煮た豆が熱いうちに素早くしなければならないので家族総出でやったものでした。ツトッコは20本ほどでしたでしょうか。
 それから、ツトッコを重ねると上から更に熱いお湯をかけて
(※沸騰した湯をかけるのはワラの雑菌を殺し納豆菌芽胞だけを生き残すため。)ワラクズで包んでムシロを巻いて3、4ヶ所をきつくしばりました。それを父が茅葺きやの屋根裏まで背負って上がって、山のように積んであるワラを2、3束引き抜いて穴をつくってその中にムシロで包んだ納豆を入れて再び隙間のないようにワラをでおおいました。納豆を包んだムシロの中の熱を逃さないためです。
 こうして、2、3日おいて4日目くらいにワラの中から取りだしてみると、納豆のいい香りがすると、よくできたことが分かります。ツトッコを取りだして開いてみるともう完全なできばえでヤジが出てのびるのでした。これで、正月のご馳走が一つできあがるのです。
 しかし、中には、「今年は、納豆をしくじってしまった」などという家の話を聞くと、その家へ納豆のツトッコを2本ほど母に言いつけられて届けたものでした。持っていくと駄賃に黒砂糖のかたまりやツケギをもらって帰ったことを憶えています。

  後年、買い求めたナット菌を使って納豆づくりをするようになり、失敗することはなくなりましたが、多くの人がワラで寝せて作った納豆の方が美味しいと言っていました。