昔のタバコ吸い
                          田辺雄司
 昔のタバコ吸いが、囲炉裏の縁〔ヨログチと呼んでいた〕にコンコンとキセルを軽く叩き吸い終わった灰を落とす姿が今でも目に浮かぶようです。
 昔は巻きタバコなどはなく、もっぱらズンギリと呼ぶ入れ物に刻みたばこを入れ、マッチを入れた小さな薄いブリキで作った入れ物とキセルを入れておくサシがセットになった道具を腰帯にさしていました。
 刻みたばをいれるズンギリは10p真四角で厚さは3pほどの入れ物でした。中にいれている刻みたばこは極く細いもので「ハギ」という名前のものがよく吸われていました。
 家に居る場合は、先に書いたようにポンポンと囲炉裏に吸い殻を落としから、刻みたばこを詰めるのでしたが、山や田んぼ仕事で一服するときには平手の中に、プッと吸い殻を吹き出して、用意しておいた刻みタバコを素早くつめてます。そして手の中の火だねの吸い殻に押しつけて火をつけるのでしたが、手の中に吹き出した吸い殻は最後まで吸いきらないで少しタバコが残ったものでしたのでそれほど熱くはなかったのでした。
 そのようにして長くタバコを吸っているとキセルの中にヤニが溜まり煙の通りが悪くなります。そうすると藁のヌイゴ〔穂の茎〕を吸い口の方から差しこみ先の方から引っ張ってだすと穂の部分が中のヤニを取り出してくれます。それを数回やるときれいにヤニは取れるのでした。キセルを通したヌイゴはヤニで真っ黒になったものでした。
 キセルにも銀の雁首と吸い口に紋様のあるラオ竹〔ラオスから渡来した黒斑入りの竹〕を使った贅沢なものもあり、ズンギリのタバコ入れも趣味のある人は黒柿材で自分で作る人も居たものでした。また、サクラの木の皮を巻いたきれいなズンギリもありました。
 キセルを入れる筒状の入れ物は只の竹で作った質素なものからサクラの皮を巻いたものその他色々ありました。また、手の中に吹き出す火だね入れの小さな皿状の入れ物をつけたタバコ道具もありました。
 「さて、一服するか」と腰からタバコ道具を取り出してきざみタバコを指先で小さく丸めてキセルの雁首に詰め込み火をつけて吸う姿は本当にうまそうでした。

 その後、昭和30年代に入ると巻きたばこが普及して、刻みたばこはだんだんと姿を消してしまいました。また、マッチもガソリンライターに変わって今日にいたったのでした。