馬屋と敷き藁堆肥について
                             田辺雄司
 馬屋は、たいていの家では、トマグチ(玄関)を入った土間のニワの脇にありました。大きさは9尺×9尺ほどで、出入り口は3尺×6尺でした。
 馬屋の土は、縁の下からおよそ2尺ほど掘ってあり、中央部に向けて勾配がついていて中央には馬の尿が溜める桶がふせてありました(下図)。桶の直径は4尺ほどで深さは3尺ほどでした。桶のフタは幅1尺ほどで厚さ5寸ほどの板を何枚も並べて置くのでした。(フタの板は、馬の尿の塩分がしみこむせいか、何十年も腐ることなく長持ちをしたものです。)その上に滑らないようにムシロとか古い俵などを敷いておいたものでした。そして馬屋いっぱいに、藁を、もくもくするほど敷きつめました。馬小屋の敷き藁を新しいものに替えてやったときには、馬は気持ちよいのか必ずと言ってよいほど寝ころんで手足を伸ばして元気な声デ「ヒヒヒーン」といななくのでした。それまでは、しめった藁や草の上で過ごしていたのできっと、じょんのび(気持ちいい)なのでしょう。
 馬屋のコエアゲ(馬屋の藁の取り替え)は夏場には草を7〜8束刈ってきて敷きました。馬は草の葉の柔らかな所だけ食べて後は踏みつけてしまいます。1ヶ月に2度ほどはコエアゲをしてやりました。コエアゲは鈎のついた棒(私たちの子どもの頃は木の股枝を使ってつくったもの→下図)で馬屋の敷き藁を引き出しました。
 そして庭の端などに引っ張って運び積みあげました。馬屋の敷き藁を引き出すときに、馬の糞は手で拾い分けて箕に入れて外便所(くみ取り口の肥え桶→サンジャクモン)の中に入れました。そうして敷き藁を全部引きだした後は馬屋の中央にふせてある尿だめ桶の尿を手桶で汲んで馬の糞溜め用のサンジャクモンの中に移し入れるのでした。そして「肥かきまわし棒」で突っついて馬の尿と糞をよく混ぜて軟らかくしてそのままにしておいて醗酵させてから野菜などの元肥(モトゴエ→植え付け時に施す肥料)として使いました。
 馬の糞は牛の糞に比べて肥料としては格段の差があると言われ、馬を飼っていない家では、1ヶ月ほど馬を借りたり、毎日の馬の飼料の草刈りを引き受けてその代償として敷き藁をもらうことも行われました。農耕馬は春秋の農繁期以外は仕事はなかったのですが、優れた肥料を作る役割を果たしていたわけです。

 また、馬屋の敷き藁を積んで置くと発酵により相当高い熱を持ちます。春先や晩秋などは、もうもうと湯気がたっていたものです。
 この熱を利用して春に小さな藁ツトッコの中に野菜のタネを布に包んで入れて芽出しをしたものでした。馬肥積みの表面から10pほど中に、このツトッコを入れておくと2、3日で芽が出るのでそれを畑に植えたのです。
 また、この敷き藁を夏の刈草積みの時に草と交互に積み重ねて良質の堆肥を作ることもしました。