チガヤの畳表
                         田辺雄司
 昭和初め頃、私の集落にただ一軒チガヤ畳を作る家がありました。夏の暑い最中にチガヤを刈りとり、くず(葉や苞など)を取り払い、長い良質のチガヤだけ選りすぐって陰干しにしました。直射日光にあてて乾燥するとチガヤの色が鮮やかな緑色にならず白っぽく仕上がるので十分に注意したとのことでした。
チガヤ
 
 その家の主人は大変器用な人でワラで畳の芯まで自分で作るのでした。こうして作った畳は「草たたみ」と呼ばれていました。(集落によっては「やろうどこ」と呼んだ)
 畳芯はワラを重ねて畳針と呼ぶ長い針でワラを縫って締めるのでしたが機械を使って固く締めた本畳に比べるともくもくした感触でした。その上、畳表もイグサの表に比べて毛羽立っているのでチクチクしました。そのため、できあがると畳の表を縄やワラでゴシゴシとこすって毛を取り除きましたが、それでも素足で坐るとチクチクしたので余り普及はしませんでした。しかし、使っているうちに毛も取れてもくもくした感触がそれなりに心地よい畳だったと思います。
 草たたみは、普通の畳に着いている布の縁もつけませんでした。当時は集落の何軒かの家では、その人に頼んで畳を作ってもらっていました。
 また、畳の芯を作るときにワラを縫って締める糸は、戦時中にはどこの家でも栽培していた麻の皮で細い糸を作って使っていました。 小学生の時にその家に畳作りの様子を見に行ったときのことを今でも憶えています。