センチ〔便所〕
                            田辺雄司
 昔〔昭和のはじめ〕の大抵の家の間取りでは、馬屋の隣りに3尺〔約90p〕×3尺か3尺×4尺の小便所がありました。そこにはアサガオと呼ぶ便器がありました。アサガオは木製で漏斗状に上が開いた便器で本来は男子用の便器ですが昔は女もそこで用を足していました。
 大便所はたいてい家はトマグチ〔玄関〕の脇にありました。玄関との仕切りの戸もムシロ2枚ぶら下げた家も多く、トマグチの戸はないのが普通で、外の風がムシロの隙間から吹き込み冬は寒くて大変でした。
 また、電灯のなかった頃はカンテラかローソクの灯りを持って行かなければなりませんでした。
クズの葉

 また、当時のトイレットペーパーは紙が貴重品の時代なので一年中、クズの葉を陰干しにしたものを使用しました。夏の内に沢山採ってきて日向で干すとバリバリになって粉々になってしまいますので日の当たらない所で乾燥させるのでした。こうして干した物は簡単に破れることもありませんでした。それを大便所の備え付けの箱に入れて置く のでした。それから、その隣にテゴの古いものなどを置いて拭いた葉を入れて置くのでした。新聞をとっている家はきわめて希でしたが、新聞紙を使っている家でテゴの中にいれたものでした。便所の中に入れないで別にして置いた理由はよく分かりませんが祖父に聞いたところ田んぼの肥料にするためとのことでした。
 幼い頃には、夜に便所に行くときにはこの様にカンテラかローソクの灯りが必要だったので母親が必ず一緒に行ってくれました。昼間の農作業で疲れ切っていたでしょうが、毎晩、灯りをつけて何人もの子どもを連れて行ってくれた母のことを今にして有り難いことだと思っています。