も ら い 風 呂

                    
 田 辺 愛 子
 むかし〔昭和初期〕は、よく、もらい風呂をしたものでした。とくに農閑期の冬は、毎日続けて風呂を立てる家は少なくお互いにもらい風呂に呼ばれたり呼んだりしたものです。
 その頃は水道はなく、かけ水をミズブネにためておきました。風呂をたてるには、そのミズブネの水をバケツで風呂桶に汲み入れるのでした。でも、ミズブネの水を全部入れても風呂はいっぱいにならず、水が溜まるのを待って何度かに分けて水を入れなければなりませんでした。
 また、夏の渇水期には、かけ水も細くなるため、風呂の水は近くの沢の水を背負い桶に入れて背負って運びました。水が桶の中で、コチャ、コチャと動いてとても歩きにくいものでした。
 このように風呂を立てるには、苦労がありましたから一回沸かすと隣近所でもらい風呂をしました。もらい風呂の人が来るときにはおかずを2、3品を作ってまかなったものでした。
 また、急に隣の家の人が風呂は入りに来ることになったときなどには、あわてて風呂の水に浮いている垢を手ぬぐいですくいとったりしたものでした。
 冬の夜、隣の家に風呂もらいに行ったときなど、風呂に入って世間話をして楽しいものでしたが、冬道を歩いて家に帰るとすっかり手足が冷えてしまって、なかなか寝付けないことも度々あったことを今も忘れられません。