イモジ
                           田辺雄司
 昭和の初め頃、村にイモジと呼ばれる、鉄ナベや鉄ビン、茶ガマなどの穴のあいたものを修理する人がやってきました。毎年、決まった家の土間口を借りて真ん中あたりに小さな穴を掘ってそこで火をおこすのでした。
 おこした火の温度を上げるために四角で細長い箱をそばに置いて、その箱の中の空気をピストン運動でその先から細いパイプで送り出す道具(後にフイゴと呼ぶものと知りました)を使っていました。 温度が上がってくると火の中に小さな湯飲み茶碗のような形の金属の入れ物(るつぼ)に古い鉄くぎやトタンの切れ端などを小さく切って入れて、せっせと空気を送るとルツボの中の鉄くずがドロドロに熔けるのでした。
 イモジは、あらかじめナベや鉄ビンの穴のまわりをきれいにしておいて、そこに穴を囲むように粘土をつけておき、そこに熔けた鉄を静かに流し込むのでした。
 しばらく、そのままおいてからまわりの粘土を取り除きますと穴はきれいにふさがっていました。イモジは仕上げにヤスリをかけて平らにして終わるのでした。
 トマグチに穴を掘って仕掛けをつくるまでが大変なので、見物している私たちに「穴の開いたナベやカマがあったらもってこい」と言うので、村中を走り回ってイモジが来ていることを知らせると、あちこちの家から大勢の人がナベやカマ、鉄ビンンなどを下げて集まったものでした。