井戸堀り
                           田辺雄司
 昔(昭和30年代ころまで)はどこの家にも井戸が使われました。井戸には、縦井戸と横井戸がありました。
 井戸を掘るとになると、水が出ると思うところに見当をつけなくてはならないわけですが、どこの村にもその道の達人(苦労人)が1人や2人はいたものでした。
 まず、そういう職人を頼んで、どの場所にどの方向へ掘ったらよいか見てもらうのでした。やはり、一年中水気があり湿っている場所があるとか、横井戸であれば上に田があるとか何かしら判断の元になるもがあったのでしょう。
 横井戸堀は、最初は土も柔らかで一日2mくらい掘り進むのですが奧にいくほど泥岩が多くなり手間取ります。その上、土を運び出す距離がだんだん長くなるわけですから、それだけ労力も多くかかります。奥深く進んで手元が暗くなると和ロウソクを立てて柄の短い少し小型の鍬や唐鍬を使ってコツコツと堀り、根気のいる仕事でした。
 掘った土はズリモッコと呼ぶ小さい箱モッコで運び出していましたが高さ4尺(約120p)幅2尺(約60p)の中で作業でしたから大変だったと思います。それに場所によっては上から水がポタポタと落ちるのでミノを着て笠をかぶっての仕事となりました。
 井戸掘り職人はある程度掘っていって全然水気がなければ見切りをつけますが、上からぽたぽた水滴が落ちたり自分が仕事をしている場所が多少でも湿っていれば望みをもって右左に水脈を求めて右左に掘り進みました。地面に水がたまってところをもズリモッコを引くと下の地面はどろどろとなり最後は鍬で泥を外に出したり、中央に溝を切ってを流したりして仕事を進めました。
 一方、縦井戸は周りの田とか、沢やタネ(家の脇の池)や木などを見て場所を選んで掘るのでした。縦井戸掘りはだんだんと深くなるに従い、上のほうに3又を組んで井戸車のような滑車をつけて、丈夫な縄にこれまた手桶の新しいものを結びつけて掘った土を引き上げるのでした。滑車は井戸の中央につけて土を入れた手桶が揺れて周囲あたらないようにしました。穴の周囲に桶があたり岩が落ちると危険だからでした。また、若干のガスの発生などで掘っている人が息苦しい感じが少しでもすると桶の周りに杉の葉をつけてそこ近くまで下ろした上げたりして空気の入れ換えをしたものでした。
 たいてい、4、5間掘ると水が湧き出る事が多いので、水が湧き出る「おお、出たぞ」などと大きな声を張り上げ、上にいる人と一緒にて喜ぶのでした。そして、下ろした縄ばしごで上がきます。
縦井戸の組み上げ桶

 それから井戸の口元のところ(風化して崩れやすいので)にコンクリート製の井戸枠(径1m、高さ60p)をふせて、さらに地上にもう一つ枠を取り付けて地表のものが落ちることのないようにしました。
 縦井戸は、カンギやミンジョ(台所)など家の中にもあり使用されました。夏などはスイカやジウリなどを入れて冷やして食べたことを懐かしく思い出します。
 井戸水のくみ上げは最初は桶が使われましたが、その後井戸車を使ってツルベを巻き上げる仕掛けが普及しました。(井戸車のキイキイという音を家々からよく聞こえてきたものでした。)更にその後は手押しポンプにかわり、その後、電気のホームポンプも普及しました。