下駄屋

 お盆が近づくと下駄売りの行商人がやってきました。大きな箱の中に下駄を沢山入れて背負ってやってきてガンギに荷を下ろすと箱の中から色々な下駄を出して並べました。
 太い黒い鼻緒のついた男物の下駄や赤い模様の鼻緒の女物、女の子用のかわいいポックリ、それから歯が一枚で爪革つきの雪駄などを並べました。

 毎年、やって来るので、そこの家で買ってくれる下駄が分かっているので留守の場合など黙って置いていくこともありました。
 下駄は、子ども達はよく履いていましたが大人は普段はあまり履きませんでした。隣近所に用足しに行くときに履くくらいなものでした。
 只、家の中の小便所のアサガオ〔男の小便用の便器〕の前には「小便下駄」と呼ぶ大きな下駄が逆さの八の字の形で置いてありました。その下駄は普通の下駄より幅が広く長さも長い大型のものでした。この下駄は小便所専用で決して外へ履いてでることはしませんでした。この下駄も毎年買い替えていたようです。
 今では、下駄はほとんど履かれなくなりましたが、私は昔の下駄が一足あるので時々出して履いています。

   田辺雄司(石黒在住)