山の神の日思い出
                              
 3月の頃、雨の日の夜から晴れて気温が下がると翌日はヤブツ(雪の上) が堅く凍みて、子供がどこを飛び回っても足がもぐることはない。
 こんな朝は早起きをして男の子は木ゾリを引いて村はずれに行って滑る。女の子は木ゾリは危ないからとワラゾリを作ってもらう。ワラゾリはワラ3把をまとめて穂の方を折り曲げて固く結び5、60pの縄をつけ、裏には雪だなのカヤを引き抜いてソリの長さに折って数本挿すよく滑る。
 しかし、3月9日はどんなにヤブが凍みても家の周りで遊ぶしかなかった。なぜならこの日は山の神の祭りの日であったからだ。昔から親たちはこの日だけは山に行ってはならないと子供にも言い聞かせてきたものだ。
 なぜこの日に山に行ってはならないのかと聞くと祖父は次のように教えてくれたものだ。
「この頃はだんだん雪も消えてくるので、山の神々が山の安全のために寄り集まって話しをするため、神様があちこちからお出ましになるので邪魔になってはならない。つまり、雪が消えて人間が山に山菜採りに出かけたり木を切りに出かけたり田畑の仕事に出かけたりしたときの安全を守ってくださる神様のお祭りの日なのだ」
 昔からのしきたりであり、子供たちも納得して家の周りで遊んでいたものだ。高等科の生徒は、翌日10日の陸軍記念日に行われる冬の運動会での旗取りの雪の塔作りに本校に出かけていたことを憶えている。

  田辺雄司 (石黒在住)