大正時代の正月行事の思い出
                      
     さいの神
 正月15日は朝早く村中で、さいの神の塔作りをする。高さ一丈〔3m〕くらいに竿を組み合わせ、周りに藁を積み上げる。
 やがて、朝飯が終わった頃になると、ホラ貝が鳴り響く、すると、どの家からも子どもも、年寄りも自分の持っている一番よい着物をきて集まってくる。それは、さいの神によって悪魔よけをしてもらうという意味があったからだ。
 大人は、家から餅を持ってきてその火で焼いたものだ。そして、この焼いた餅を家に持って帰って、つるしておき風邪をひいたときにそれを食べると治ると言い伝えられ、風邪をひく度に食べさせられた。また、体の具合の悪い所を、さいの神の火で暖めるとよくなると言われ大人が腹や腰を出してさいの神の火で暖めたものである。

     モグラ負い
 家の周りの畑などにモグラやヘビが出るので、正月2日に、モグラ追いの行事が行われた。一人は、サイヅチを縄でしばり「モグラモチ、もぐすと、かっつぶすぞ」と言いながら引きずって歩いた。もう一人は入れ物に灰を入れ「なが虫でるな、出ると目が危ないぞ」といいながら灰をまいた。

     鳥追い
 正月15日の夜が明ける頃、外に出て「稲の鳥も、粟の鳥も、ヒエの鳥も,ソバの鳥も、みんな、たてやぁ〔飛んでいけー〕」と大きな声で枝や拍子木をたたきながら怒鳴ったものだ。
 朝の静かな時、恥ずかしくきまりが悪いようでなかなか第一声が出ない。けれども、よその家からも聞こえてくると、それに連られて負けまいと大声で鳥を追ったものだった。

     なりものの木ぜめ
 正月15日には、どこの家でも小豆かゆを作った。そのかゆを、柿やナシの木にくれたものだ。二人で一組で一人はナタで木の幹を傷つけながら「ならんか、ならんか」という。もう一人は「なります、なります」と言いながら、その傷跡にかゆをくれた。

   文-小林健二(寄合)
        「石黒校百年の歩み」より